トランジスタを2個使った弛張発振回路の動作解析
◆まえがき
少し前にコイルガン用のLED曳光弾を作りましたが、このLEDを高速で点滅させることが出来れば弾道が点線に見えて面白そうです。点滅させる回路は小さな弾丸の中に入れないといけないので、出来るだけ簡単なものにする必要があります。そう考えると、トランジスタ2個で作る弛張発振回路が良さそうです。
そんなことを考えて、具体的な回路の検討を始めてみました。
◆弛張発振回路
ネットにいろいろ解説があるのですが、読んでみると何だかしっくりくるものがありません。(弛張発振回路 LTspice などで検索)そんなことで、自分でもLTspiceを使ってシミュレーションして動作を確認してみることにしました。
・回路図
一般的な回路のままですがいくつか気になった点があります。
1)過大電流の恐れ
Q1からLEDを通ってGNDまでのパスに抵抗が入っていないので、過大電流が流れる恐れがあります。また、Q1のベースからQ2のエミッタまでのパスにも抵抗が入っていないので、こちらにも過大電流が流れる恐れがあります。
実際には大きな電流が流れるのは瞬間的だし、思いっきりトランジスタをONさせるようにはなっていないので、すぐに壊れることは無いのでしょうが、ちょっと気持ち悪いです。
2)トランジスタの選択
ネットの事例はQ1に2N3906を、Q2には2N3904を使われていることが多く、ポピュラーな2SA1015と2SC1815を使ってシミュレーションした例は少ないようです。その理由は「発振しない」ということのようです。また、2SA1015/2SC1815を使って発振させた事例ではデバイスのhfeをうんと下げているようですが、それはちょっとやりすぎな気がします。
以上の話はシミュレーションした場合で、実際の回路を組むと2SA1015/2SC1815でも発振するようです。デバイスモデルの精度が悪いのかもしれません。
3)R1の値
R1の値は一般的には220kΩが使われるようです。しかしそれでは前項に書いたように2SA1015/2SC1815では発振しなかったので、2000kΩに変更しました。この値なら発振します。R1の値が小さいとベース電流が大きくなり過ぎて、Q2を反転させてOFFにすることが出来なくなってしまって発振しなくなるようです。限界の抵抗値は1500kΩ付近でした。
4) C1の値
C1はシミュレーション結果が見易くなるように発振周波数を上げたかったので470pFにしています。実際に使う時は要調整。
◆シミュレーション結果
・全体波形
電源ONから350μsまでの各部の波形です。最初の山が電源ON直後、2発目がその後繰り返して発生するパルスで、パルスの周期は230μs、パルス幅(発光時間)は30μsとなっています。
波形の意味は図中に書いておいたので説明は省略します。
以下、詳しく見て行きます。
・電源投入直後の波形
電源ONから10μs後までの波形です。短時間に多くの変化があるので時間を拡大した波形で説明します。
括弧付き番号の順に事象が進んで行きます。
(0) 電源ON前
GNDに対するコンデンサの両端電圧を図で示しながら説明します。赤い棒がコンデンサで、棒の左側がQ2のベース、右側がLEDのアノードです。
当然ですが、最初は両側がゼロボルト。
(1) ベース電圧が徐々に増加。R1から電流が供給されるためにゆっくり電圧上昇があるのだと思いますが、実は理由が良く判りません。
左から持ち上げられて、徐々に上に移動。右側はフリーなので電荷の移動は無く、左に追従して電圧上昇。
(2) 3μs後にベース電流が10μAくらいに増えています。なぜこのタイミング(電圧で)こういう現象になるのか良く判りません。
(3) ベース電流が増えたのでQ1の電流が流れ始めLED電圧が上がります。何しろダーリントン接続になっているので合成hfeは9万くらいあり、僅かな電流にも敏感に反応するはずです。
(4) LED電圧増加の影響がコンデンサを通してベース電圧を上昇させる。(たぶん)
(5) ベース電圧が0.6Vくらいまで上昇するとQ1,Q2が完全にONになりLED電圧を急上昇させ、コンデンサで繋がっているベース電圧も上がるので更にLED電圧上昇。ここまで電源ONから5.5us。
LED電圧は上がるがベース電圧は、ベースエミッタ間のダイードで電流が吸収され0.6V以上には上がりません。余剰の電荷はベース電流として消費される。これはQ2のベース電流波形にある最初の7mAのスパイクとして現れています。
(6) ベース電流が流れることでQ1がONになってLED電圧が上昇
左側はベースのダイオードでクランプされるので0.6Vで頭打ち、右側はLEDの点灯電圧の2.7Vまで上昇して頭打ち。これでLED点灯です。
弛張発振回路としては「張」の状態になったことになります。
・電源ON以降、発振する様子
(7) (8) LEDのフル点灯が続く
(9) コンデンサの電荷が尽きてベース電流を流せなくなるとQ1,Q2がOFF
右側の電圧が1.5Vまで急降下してLED消灯。C1で繋がっている左側もほぼ平行移動で下に落ちて-0.3Vまで下がる。
コンデンサの電荷が失われなければ完全に下に平行移動で-0.6Vになるはずですが、ベースをOFFにするために電荷のロスが少しあるために -0.3V になっているのだと推定。(このあたりあまり自信がありません)
回路の緊張が弛んだ状態、つまり「弛」の状態になったことになります。
(10) R1経由でコンデンサがゆっくり充電される
LED消灯後、R1でC1が充電されるため、左側(ベース電圧)がゆっくり上昇。この時の時定数は R1*C1。
右側はLEDのVfに押さえられているので電圧上昇は無し。
ベース電圧が0.6Vに近づくとQ1,Q2がONになり始め、その後は(5)項に戻ってLEDが点灯。
以下繰り返しで発振継続。
◆考察
コンデンサの両端の電位を示す赤いバーは最初は水平ですが以降は常に右上りになっています。つまり電解コンデンサーを使うなら右側(LED側)をプラスで使います。
(10)項でコンデンサの電荷が尽きた時に、R1からの電流が大きいとQ2がOFFにならないので発振しなくなるのだと思います。(回路図の説明の3) 項 R1の値で触れた話です)
ネットの記事に、(9)項から(10)項の過程で「コンデンサの端子間電圧が減少するのだから充電と言うのはおかしい」という意見があります。静電エネルギーの収支から考えれば確かにそうです。しかし、R1を通して電荷を注入してベースの電位を上昇させているのは間違いありません。つまりエネルギーでは無く回路の電圧で考えれば充電していると言って問題無いと思います。
◆まとめ
これで弛張発振回路の細かい挙動が把握出来ました。実際の回路でのテストはまだですが、時間のある時にやって見たいと思います。
記事ではもっともらしく書いていますが、理由が判らない挙動がいくつかあります。そのあたりは判った時点で追記などをしていきたいと思います。
◆追記
コメントで居酒屋ガレージ日記さんに教えてもらった回路の一つを動かしてみました。(図をクリックで別窓に大きく表示)
Q2のベースがHIGHになるとQ2がONになり、Q1もONになってコレクタがLOWに。そうなるとQ2のベースをLOWにしちゃうので折り合いが付かなくなって発振!てな感じでしょうか。
R2とR3でQ1を能動領域に誘導しているのがポイントだと思います。ただパワーを取り出すには向いてない感じです。
C1の片側がGNDに落ちているので「コンデンサに充電」というのが、電位でもエネルギーで考えても成り立っています。というか、こっちの回路が弛張発振回路の元祖で、この記事で取り上げたLED点滅回路はその応用と言うことになるのでしょう。
- 関連記事
-
- コイルガン用の点滅LED曳光弾を作ってみた
- トランジスタを2個使った弛張発振回路の動作解析
- コイルガン用のLED曳光弾の製作
- 誘導電流で1円玉を飛ばす
- 電池タブ溶接機を使ったコイルガン(特性測定偏)