実体顕微鏡(SMZ-2B)のバルサム切れの修理
最近の電子部品はすごく小さいので、回路いじりには実体顕微鏡があると便利です。そんなことで私にとっては、無くてはならない道具になっています。
▼実体顕微鏡 ニコン SMZ-2B

目の代わりなので良い状態に保ちたいのですが、最近やった分解清掃でレンズの貼り合わせ面に曇りがあることが判明しました。
ネットで調べてみると、これはバルサム切れと呼ばれる現象のようで、古いカメラのレンズで起こり易い問題みたいです。修理方法はいろいろな事例がネットに公開されていますが、レンズを分離して接着面を清掃し、再度UV接着剤で貼り直すという手順でやるようです。
そういう資料を読んでいると、何だか自分にも出来そうな気がしてきたのでやってみました。以下その手順を写真多めで紹介します。
▼問題のレンズ

これはズーム用光学系の最終レンズですが、レンズの中が曇っています。なお、この写真は以前の記事で使ったものと同じです。
▼レンズ固定リングを外してみた

出来るだけ分解する範囲を拡げたくなかったので、レンズを固定しているリングネジを外し、レンズだけ抜き取ることを試みたのですが、無理でした。
▼レンズホルダごと外した

仕方が無いので、レンズを固定している板バネを外し、レンズホルダごとレンズを外しました。なおレンズホルダの外周はテーパー加工されていて、押しネジと板バネでベース面に押し付けて固定するような構造になっていました。この押しネジ(イモネジ)は光軸の調整に影響するので、いじってはいけません。(ゆるみ防止に接着剤が塗られています)
レンズホルダにケガキを入れ、後で元の向き(回転方向)に戻せるようにしておきました。また、レンズにもマジックインキで印を付け、レンズホルダに対する向きが判るようにしておきました。
▼レンズ

ホルダから外したレンズです。剥がすと2枚のレンズ相互の位置関係が判らなくなるので、ダイヤモンドヤスリで合いマークをコバ面に刻んでおきました。以降の作業で有機溶剤をいっぱい使うので、マジックインクのマーキングでは消えてしまいます。
▼バルサムの劣化の状態

横から強力なライトを当てると判り易くなりますが、全面が白濁していてソフトフォーカスフィルタを入れたような状態になっています。
これからが第一関門のレンズの分離です。加熱急冷を繰り返す方法がよくやられているみたいですが、レンズが割れそうで怖いのでアセトンに漬けっぱなしにして、ゆっくりと接着剤を溶かしていく方法でやりました。
▼アセトンに浸漬して超音波洗浄

単に漬けておくだけでは時間がかかりそうなので、超音波を併用しました。中の白い磁器製の容器(焼きプリンの容器?)にアセトンとレンズを入れておき、その容器を水の入った超音波の洗浄槽に入れて時々超音波をかけました。
この超音波洗浄機は5分で出力が自動的にOFFになるので、気付いた時に(30分間隔程度で)時々超音波を入れるというやり方で使いました。また。アセトンの容器にはアルミ箔で作った簡単な蓋をかぶせて、蒸発防止対策としました。
▼剥離の様子

周辺が透明になって、接着剤が溶け出していることが判ります。
▼剥離が進む

透明な部分が拡がり、中の樹脂が白くなっています。アセトンに溶けやすい部分とそうでない部分が微小なセル状になって存在しているような気がします。この写真は開始から4時間くらい経った状態です。
さすがに夜は超音波を入れることは出来ないのでアセトンに漬けっぱなしでそのまま放置しておきました。
▼分離成功

一晩放置し、翌朝見てみると全面が透明になっていました。アセトンに漬け始めてから約12時間後です。指でずらすと、ぬるりという感触でレンズを分離することが出来ました。
▼レンズの構成

剥がすことで判ったレンズの構成です。左が対物レンズ側で光はこちらから入ってきます。全体としては凹レンズになっていて、後ろ側にメニスカスな凸レンズ(B)を貼り付けるという構造になっていました。
剥がしたレンズの表面をクリーニングしておいて、さてこれからが第二の関門のレンズの貼り合わせです。
▼貼り合わせの準備

作業を始めると中断出来ないので、必要な物を手の届くところに用意しておきます。
下側のレンズは両面テープでプラ板(青い板)に固定し、合いマークの方向にマジックでマーキングしておきます。
爪楊枝は、貼り合わせた後で、2枚のレンズの外周を両側からいろいろな向きで押し付けることで位置合わせするために使います。
右にあるのはUV接着剤と紫外線照射用のLED(λ=375nm)です。奥にはエアダスターとエタノールスプレーにLEDライトなどが見えています。
背後の白い布はキムワイプを拡げたもので、できるだけ繊維クズを発生させないための配慮です。なおこの写真を見て気付いたのですが、キムワイプでは無くアルミ箔を使った方が良かったかもしれません。
▼上側のレンズに取っ手を付ける

レンズを扱いやすくするために、上側のレンズに短い棒(M3のデルリン製のスタッドボルト)を両面テープで貼り付け、取っ手代わりにしました。レンズは小さくて扱いにくいので、扱い易くしておくこと、つまり段取りを十分行っておくことが重要です。
▼UV接着剤を滴下

この後で向きを合わせながら上のレンズを重ね、余分な接着剤を外に追い出しながら密着させます。次に爪楊枝を使って2枚のレンズの外周位置をぴったりと合わせます。レンズホルダの内径とレンズ外形のギャップはほとんど無いので、外周をぴったり合わせておかないとレンズがホルダに入らなくなります。
▼UV照射

紫外LEDを使って接着剤の硬化を行います。
完全に硬化させるために、この後は太陽の直射光に30分くらい曝しておきました。接着が終わると、レンズの周囲にはみ出した接着剤を削り落とせばレンズの合体は完了です。
▼レンズをホルダに戻す

汚れをクリーニングして、組み込む前の最終確認です。曇りは無くなって綺麗なレンズに蘇りました。
▼本体に戻す

合いマークで元の向きに合わせ、押さえの板バネを取り付けてレンズを固定します。
▼試し撮り

コントラストなどの画像補正無しでこれくらい撮れるようになりました。少し眠い感じなのは照明あるいはカメラの設定のせいか?
◆まとめ
実体顕微鏡のバルサム切れの修理は成功したようで良かったです。観察していても、透明感のある視界が広がって、良い感じです。
修理に使った接着剤が劣化して黄変などしないかがちょっと心配ですが、まあこのまま使ってみることにします。なお、使ったUV接着剤は100円ショップのセリアで買ったハードタイプのUVレジン液(クリア)です。
実体顕微鏡なので光路は左右二つあります。この2つを同時に分解すると、万一光軸やピント位置が狂った時に元に戻すための基準が無くなってしまいます。また、左右の部品を混ぜてしまう恐れもあります。そんなことを考え、修理は片側づつ順番に行いました。つまり作業には二日かかりました。
カメラの交換レンズなら、バルサム切れの修理に失敗してもそのレンズが使えなくなるだけで済みます。しかし実体顕微鏡でもし片側の修理に失敗すると、単眼の顕微鏡になってしまう訳で、これでは価値が激減してしまいます。そんなことで、作業は慎重にやる必要があります。ちなみに両眼立体視の顕微鏡、つまり実体顕微鏡を使うと、その見易さから単眼の顕微鏡には戻れなくなります。
記事との関係は薄いのですが、関連写真をここに上げておきます。写真撮影アダプタです。



使っている接眼レンズは Wild の10X/21 ハイアイポイントなので眼レンズが大きいです。
▼実体顕微鏡 ニコン SMZ-2B

目の代わりなので良い状態に保ちたいのですが、最近やった分解清掃でレンズの貼り合わせ面に曇りがあることが判明しました。
ネットで調べてみると、これはバルサム切れと呼ばれる現象のようで、古いカメラのレンズで起こり易い問題みたいです。修理方法はいろいろな事例がネットに公開されていますが、レンズを分離して接着面を清掃し、再度UV接着剤で貼り直すという手順でやるようです。
そういう資料を読んでいると、何だか自分にも出来そうな気がしてきたのでやってみました。以下その手順を写真多めで紹介します。
▼問題のレンズ

これはズーム用光学系の最終レンズですが、レンズの中が曇っています。なお、この写真は以前の記事で使ったものと同じです。
▼レンズ固定リングを外してみた

出来るだけ分解する範囲を拡げたくなかったので、レンズを固定しているリングネジを外し、レンズだけ抜き取ることを試みたのですが、無理でした。
▼レンズホルダごと外した

仕方が無いので、レンズを固定している板バネを外し、レンズホルダごとレンズを外しました。なおレンズホルダの外周はテーパー加工されていて、押しネジと板バネでベース面に押し付けて固定するような構造になっていました。この押しネジ(イモネジ)は光軸の調整に影響するので、いじってはいけません。(ゆるみ防止に接着剤が塗られています)
レンズホルダにケガキを入れ、後で元の向き(回転方向)に戻せるようにしておきました。また、レンズにもマジックインキで印を付け、レンズホルダに対する向きが判るようにしておきました。
▼レンズ

ホルダから外したレンズです。剥がすと2枚のレンズ相互の位置関係が判らなくなるので、ダイヤモンドヤスリで合いマークをコバ面に刻んでおきました。以降の作業で有機溶剤をいっぱい使うので、マジックインクのマーキングでは消えてしまいます。
▼バルサムの劣化の状態

横から強力なライトを当てると判り易くなりますが、全面が白濁していてソフトフォーカスフィルタを入れたような状態になっています。
これからが第一関門のレンズの分離です。加熱急冷を繰り返す方法がよくやられているみたいですが、レンズが割れそうで怖いのでアセトンに漬けっぱなしにして、ゆっくりと接着剤を溶かしていく方法でやりました。
▼アセトンに浸漬して超音波洗浄

単に漬けておくだけでは時間がかかりそうなので、超音波を併用しました。中の白い磁器製の容器(焼きプリンの容器?)にアセトンとレンズを入れておき、その容器を水の入った超音波の洗浄槽に入れて時々超音波をかけました。
この超音波洗浄機は5分で出力が自動的にOFFになるので、気付いた時に(30分間隔程度で)時々超音波を入れるというやり方で使いました。また。アセトンの容器にはアルミ箔で作った簡単な蓋をかぶせて、蒸発防止対策としました。
▼剥離の様子

周辺が透明になって、接着剤が溶け出していることが判ります。
▼剥離が進む

透明な部分が拡がり、中の樹脂が白くなっています。アセトンに溶けやすい部分とそうでない部分が微小なセル状になって存在しているような気がします。この写真は開始から4時間くらい経った状態です。
さすがに夜は超音波を入れることは出来ないのでアセトンに漬けっぱなしでそのまま放置しておきました。
▼分離成功

一晩放置し、翌朝見てみると全面が透明になっていました。アセトンに漬け始めてから約12時間後です。指でずらすと、ぬるりという感触でレンズを分離することが出来ました。
▼レンズの構成

剥がすことで判ったレンズの構成です。左が対物レンズ側で光はこちらから入ってきます。全体としては凹レンズになっていて、後ろ側にメニスカスな凸レンズ(B)を貼り付けるという構造になっていました。
剥がしたレンズの表面をクリーニングしておいて、さてこれからが第二の関門のレンズの貼り合わせです。
▼貼り合わせの準備

作業を始めると中断出来ないので、必要な物を手の届くところに用意しておきます。
下側のレンズは両面テープでプラ板(青い板)に固定し、合いマークの方向にマジックでマーキングしておきます。
爪楊枝は、貼り合わせた後で、2枚のレンズの外周を両側からいろいろな向きで押し付けることで位置合わせするために使います。
右にあるのはUV接着剤と紫外線照射用のLED(λ=375nm)です。奥にはエアダスターとエタノールスプレーにLEDライトなどが見えています。
背後の白い布はキムワイプを拡げたもので、できるだけ繊維クズを発生させないための配慮です。なおこの写真を見て気付いたのですが、キムワイプでは無くアルミ箔を使った方が良かったかもしれません。
▼上側のレンズに取っ手を付ける

レンズを扱いやすくするために、上側のレンズに短い棒(M3のデルリン製のスタッドボルト)を両面テープで貼り付け、取っ手代わりにしました。レンズは小さくて扱いにくいので、扱い易くしておくこと、つまり段取りを十分行っておくことが重要です。
▼UV接着剤を滴下

この後で向きを合わせながら上のレンズを重ね、余分な接着剤を外に追い出しながら密着させます。次に爪楊枝を使って2枚のレンズの外周位置をぴったりと合わせます。レンズホルダの内径とレンズ外形のギャップはほとんど無いので、外周をぴったり合わせておかないとレンズがホルダに入らなくなります。
▼UV照射

紫外LEDを使って接着剤の硬化を行います。
完全に硬化させるために、この後は太陽の直射光に30分くらい曝しておきました。接着が終わると、レンズの周囲にはみ出した接着剤を削り落とせばレンズの合体は完了です。
▼レンズをホルダに戻す

汚れをクリーニングして、組み込む前の最終確認です。曇りは無くなって綺麗なレンズに蘇りました。
▼本体に戻す

合いマークで元の向きに合わせ、押さえの板バネを取り付けてレンズを固定します。
▼試し撮り

コントラストなどの画像補正無しでこれくらい撮れるようになりました。少し眠い感じなのは照明あるいはカメラの設定のせいか?
◆まとめ
実体顕微鏡のバルサム切れの修理は成功したようで良かったです。観察していても、透明感のある視界が広がって、良い感じです。
修理に使った接着剤が劣化して黄変などしないかがちょっと心配ですが、まあこのまま使ってみることにします。なお、使ったUV接着剤は100円ショップのセリアで買ったハードタイプのUVレジン液(クリア)です。
実体顕微鏡なので光路は左右二つあります。この2つを同時に分解すると、万一光軸やピント位置が狂った時に元に戻すための基準が無くなってしまいます。また、左右の部品を混ぜてしまう恐れもあります。そんなことを考え、修理は片側づつ順番に行いました。つまり作業には二日かかりました。
カメラの交換レンズなら、バルサム切れの修理に失敗してもそのレンズが使えなくなるだけで済みます。しかし実体顕微鏡でもし片側の修理に失敗すると、単眼の顕微鏡になってしまう訳で、これでは価値が激減してしまいます。そんなことで、作業は慎重にやる必要があります。ちなみに両眼立体視の顕微鏡、つまり実体顕微鏡を使うと、その見易さから単眼の顕微鏡には戻れなくなります。
記事との関係は薄いのですが、関連写真をここに上げておきます。写真撮影アダプタです。



使っている接眼レンズは Wild の10X/21 ハイアイポイントなので眼レンズが大きいです。