2SC32を使った自作 50MHz AMトランシーバー
前の記事で約40年前に作った50MHzのSSBハンディトランシーバーを紹介しましたが、実はもう一台50MhzのAMのトランシーバーを保存しています。こちらはもっと古くて約50年前に製作した物です。ちょうど良い機会なので、この中身も開けて、どういう回路になっているか調べてみました。
▼自作50MHzAMトランシーバー

送信周波数は内蔵している水晶の50.550と50.700の2波だけで、受信範囲は50MHzから51MHzです。受信と送信の周波数が一致しているものをトランシーバーと言うのなら、これは無線機と呼ぶべきかも知れません。
作った頃の50MHzは空いていて、CQを出した後で、応答してくる局が無いかバンド中を探してたので、こういう仕様でもあまり問題はありませんでした。
パネル左上は、50MHz用の長いロッドアンテナで、その右は音量調節。右の大きなツマミは受信周波数チューニング。Sメーターの下のスライドスイッチは、電源/ゼロイン/周波数切り替えの3つです。ゼロインは、送信のオシレーターだけ動かすことで、受信周波数を合わせるために使います。
▼内部

単二電池10本で動かすようになっています。ぎっちりと部品が詰まっていますが、時代を感じる部品が多いです。
▼内部を反対側から見た写真

内部には基板が4枚あり、送信RF、変調、受信クリコン、受信機に別れています。また、基板は上下2つの層に分けて取り付けられています。上の写真では、上段の送信RF基板と変調基板が見えています。
送信のファイナルは2SC32の2パラで、出力は約0.3Wです。スタンバイリレーや変調トランスが無駄に大きいのは、小型の部品が手に入らなかったためだと思います。
せっかくなので、送信基板を詳しく見てみます。
▼送信基板

線を切り離して基板を取り出しました。銅箔をエッチングして作った片面基板で、銅箔面に部品をはんだ付けしてあります。これ今風に言うとSMT実装ですが、まあ穴あけするのが面倒だったからこうしたのだと思います。
回路としては水晶オシレーター兼ドライバーが2SC32、ファイナルが2SC32の2パラ。つまり全部2SC32で構成されています。確か友達が入手したジャンク基板に大量に入っていたのを、分けてもらった記憶があります。ちなみに2SC32はメサ型なので(当時としては)高周波特性が優れています。
ダミーロードを接続して電源を供給するとちゃんと動きました。調整すると約0.3Wの出力が確認出来ました。ちなみに、この無線機の送信波形をオシロで見たのは今回が初めてです。
▼送信周波数

50.700MHzの水晶なのですが、実際の送信周波数は50.687MHzでした。誤差が大きいのは、水晶の経時変化か発振回路の作り方がダメなのでしょう。そもそもオシレーターの出力で、直接ファイナルをドライブする構成は乱暴すぎます。あと、ファイナルに2SC32を二つ使うなら、パラレルでは無くプッシュプルにすべきでした。
次に、送信基板の横の変調器の基板を見てみます。
▼変調基板

こちらはユニバーサル基板で組まれていて、一般的な4石パワーアンプになっています。基板上のトランスは終段の入力トランスで、終段はプッシュプルになっています。終段に使われていたのはゲルマニウムトランジスタの2SB32で、期せずしてRF段に使った2SC32と同じ番号になっています。前段もゲルマニウムトランジスタでした。なお、変調器の出力トランスは基板に載らないので外付けになっています。
こういう細長い円筒ケースに入っているトランジスタは、アロイトランジスタが多かったと思います。ちなみにケースを開封すると、スライスされた半導体の結晶の両側にコレクタとエミッタの電極が接続された物が入ってます。これって、アロイトランジスタの原理図のままの形なので、妙に感心した記憶があります。あと、開封すると放熱用のシリコンオイル?が出てきて周囲が少し汚れます。
以上が送信部でした。次に下段の受信部を見て行きます。
▼受信部

変調器の基板をずらすと、透明な絶縁板の下に受信機の基板が見えてきます。これは市販のAMラジオの基板を流用した物で、確か6石スーパーだったと思います。右側のポリバリコンでチューニングする仕掛けになっています。
▼クリスタルコンバーター(クリコン)

50MHzをAMラジオで受信出来る周波数に変換する基板で、50~51MHzの信号を0.5から1.5MHzのAM放送の周波数に変換しています。かっこよく言うとコリンズタイプのダブルスーパーです。
ただ、第一IFの周波数が約1MHzということで、こんなに低い周波数に一度に変換するとイメージが強く出てしまいます。イメージは48~49MHzに出ますが、どうせ何も電波が出ていないだろうからと、割り切ってます。と書くとかっこいいですが、実は自分の技術力と懐具合で妥協したのがこの結果だと思います。
クリコンにはトランジスタが3個使われています(上の写真の緑色矢印部)。そのうちオレンジ色のトランジスタがRF増幅と周波数変換用の2SC460で、右下の黒色のTO-92パッケージのトランジスタ(型名不明)が49.5MHzのローカルオシレーター(第一OSC)です。
▼オレンジ色パッケージ、金メッキリードの2SC460

ここまで分解した理由の一つは、ここにどんなトランジスタを使ったのか確認したかったからです。一段目のRFアンプでその受信機の性能はほぼ決まるので、ここは重要部分です。で、見てみると2SC460が使われていました。
ネットで調べると2SC460の評判はめちゃくちゃ悪くて、経時変化で特性が劣化することで有名な石でした。どうもリード線の銀メッキがマイグレートとしてシリコンンのダイまで達し、その結果hfeが下がって動作不良となるようです。但しそういう現象が起こるのは黒色樹脂パッケージの物で、初期のオレンジ色で金メッキリードの物ではそういう問題は起こらないとのことです。
この基板に使われていた2SC460は、上の写真のようにオレンジ色樹脂パッケージで金メッキリードの物なので初期ロットということになります。つまり、特性劣化する恐れの高い物では無かったようです。今回調べるまで、2SC460にそんな黒歴史があったとは全く知りませんでした。
◆まとめ
残念ながら電源を入れてもトランシーバーとしては動きませんでした。でも送信部だけでも実際に動くことが確認出来たので、良かったです。
クリコンに使った2SC460に特性劣化と言う問題があることを、今回初めて知りました。昔のプレナートランジスタのパッシベーション膜の信頼度は低かったということなんでしょうね。あと、このトランシーバーに使った2SC460は初期型の石なので、そういう問題が無い物であったことを今回初めて知りました。オレンジ色の樹脂パッケージのトランジスタなんてそうそう無いですから、画期的なトランジスタとしてメーカーの力が入った製品だったのかも知れません。
このトランシーバーの裏蓋の内側には、昭和45年9月完成と記されています。この頃がアマチュアにもシリコントランジスタが出回り始めたということなんでしょう。
あと、16Tr、4ダイオード、2サーミスタという記載もあります。昔は使っているトランジスタの数で高性能を誇る習慣があったので、そういう習慣の反映なのでしょう。ちなみに腕時計は使っている宝石軸受けの数で、17石や23石なんて言ってましたが、そういうことの延長で、トランジスタが6石なんて言うようになったのかも知れません(あくまでも個人の感想です)。
▼おまけ

下は前の記事の50MHzSSBトランシーバーです。これ以外にもいろいろな物を作ったり買ったりしたのですが、今でも残っているのはこの2台だけです。きちっとケースに入れた物は長生きするようです。
▼自作50MHzAMトランシーバー

送信周波数は内蔵している水晶の50.550と50.700の2波だけで、受信範囲は50MHzから51MHzです。受信と送信の周波数が一致しているものをトランシーバーと言うのなら、これは無線機と呼ぶべきかも知れません。
作った頃の50MHzは空いていて、CQを出した後で、応答してくる局が無いかバンド中を探してたので、こういう仕様でもあまり問題はありませんでした。
パネル左上は、50MHz用の長いロッドアンテナで、その右は音量調節。右の大きなツマミは受信周波数チューニング。Sメーターの下のスライドスイッチは、電源/ゼロイン/周波数切り替えの3つです。ゼロインは、送信のオシレーターだけ動かすことで、受信周波数を合わせるために使います。
▼内部

単二電池10本で動かすようになっています。ぎっちりと部品が詰まっていますが、時代を感じる部品が多いです。
▼内部を反対側から見た写真

内部には基板が4枚あり、送信RF、変調、受信クリコン、受信機に別れています。また、基板は上下2つの層に分けて取り付けられています。上の写真では、上段の送信RF基板と変調基板が見えています。
送信のファイナルは2SC32の2パラで、出力は約0.3Wです。スタンバイリレーや変調トランスが無駄に大きいのは、小型の部品が手に入らなかったためだと思います。
せっかくなので、送信基板を詳しく見てみます。
▼送信基板

線を切り離して基板を取り出しました。銅箔をエッチングして作った片面基板で、銅箔面に部品をはんだ付けしてあります。これ今風に言うとSMT実装ですが、まあ穴あけするのが面倒だったからこうしたのだと思います。
回路としては水晶オシレーター兼ドライバーが2SC32、ファイナルが2SC32の2パラ。つまり全部2SC32で構成されています。確か友達が入手したジャンク基板に大量に入っていたのを、分けてもらった記憶があります。ちなみに2SC32はメサ型なので(当時としては)高周波特性が優れています。
ダミーロードを接続して電源を供給するとちゃんと動きました。調整すると約0.3Wの出力が確認出来ました。ちなみに、この無線機の送信波形をオシロで見たのは今回が初めてです。
▼送信周波数

50.700MHzの水晶なのですが、実際の送信周波数は50.687MHzでした。誤差が大きいのは、水晶の経時変化か発振回路の作り方がダメなのでしょう。そもそもオシレーターの出力で、直接ファイナルをドライブする構成は乱暴すぎます。あと、ファイナルに2SC32を二つ使うなら、パラレルでは無くプッシュプルにすべきでした。
次に、送信基板の横の変調器の基板を見てみます。
▼変調基板

こちらはユニバーサル基板で組まれていて、一般的な4石パワーアンプになっています。基板上のトランスは終段の入力トランスで、終段はプッシュプルになっています。終段に使われていたのはゲルマニウムトランジスタの2SB32で、期せずしてRF段に使った2SC32と同じ番号になっています。前段もゲルマニウムトランジスタでした。なお、変調器の出力トランスは基板に載らないので外付けになっています。
こういう細長い円筒ケースに入っているトランジスタは、アロイトランジスタが多かったと思います。ちなみにケースを開封すると、スライスされた半導体の結晶の両側にコレクタとエミッタの電極が接続された物が入ってます。これって、アロイトランジスタの原理図のままの形なので、妙に感心した記憶があります。あと、開封すると放熱用のシリコンオイル?が出てきて周囲が少し汚れます。
以上が送信部でした。次に下段の受信部を見て行きます。
▼受信部

変調器の基板をずらすと、透明な絶縁板の下に受信機の基板が見えてきます。これは市販のAMラジオの基板を流用した物で、確か6石スーパーだったと思います。右側のポリバリコンでチューニングする仕掛けになっています。
▼クリスタルコンバーター(クリコン)

50MHzをAMラジオで受信出来る周波数に変換する基板で、50~51MHzの信号を0.5から1.5MHzのAM放送の周波数に変換しています。かっこよく言うとコリンズタイプのダブルスーパーです。
ただ、第一IFの周波数が約1MHzということで、こんなに低い周波数に一度に変換するとイメージが強く出てしまいます。イメージは48~49MHzに出ますが、どうせ何も電波が出ていないだろうからと、割り切ってます。と書くとかっこいいですが、実は自分の技術力と懐具合で妥協したのがこの結果だと思います。
クリコンにはトランジスタが3個使われています(上の写真の緑色矢印部)。そのうちオレンジ色のトランジスタがRF増幅と周波数変換用の2SC460で、右下の黒色のTO-92パッケージのトランジスタ(型名不明)が49.5MHzのローカルオシレーター(第一OSC)です。
▼オレンジ色パッケージ、金メッキリードの2SC460

ここまで分解した理由の一つは、ここにどんなトランジスタを使ったのか確認したかったからです。一段目のRFアンプでその受信機の性能はほぼ決まるので、ここは重要部分です。で、見てみると2SC460が使われていました。
ネットで調べると2SC460の評判はめちゃくちゃ悪くて、経時変化で特性が劣化することで有名な石でした。どうもリード線の銀メッキがマイグレートとしてシリコンンのダイまで達し、その結果hfeが下がって動作不良となるようです。但しそういう現象が起こるのは黒色樹脂パッケージの物で、初期のオレンジ色で金メッキリードの物ではそういう問題は起こらないとのことです。
この基板に使われていた2SC460は、上の写真のようにオレンジ色樹脂パッケージで金メッキリードの物なので初期ロットということになります。つまり、特性劣化する恐れの高い物では無かったようです。今回調べるまで、2SC460にそんな黒歴史があったとは全く知りませんでした。
◆まとめ
残念ながら電源を入れてもトランシーバーとしては動きませんでした。でも送信部だけでも実際に動くことが確認出来たので、良かったです。
クリコンに使った2SC460に特性劣化と言う問題があることを、今回初めて知りました。昔のプレナートランジスタのパッシベーション膜の信頼度は低かったということなんでしょうね。あと、このトランシーバーに使った2SC460は初期型の石なので、そういう問題が無い物であったことを今回初めて知りました。オレンジ色の樹脂パッケージのトランジスタなんてそうそう無いですから、画期的なトランジスタとしてメーカーの力が入った製品だったのかも知れません。
このトランシーバーの裏蓋の内側には、昭和45年9月完成と記されています。この頃がアマチュアにもシリコントランジスタが出回り始めたということなんでしょう。
あと、16Tr、4ダイオード、2サーミスタという記載もあります。昔は使っているトランジスタの数で高性能を誇る習慣があったので、そういう習慣の反映なのでしょう。ちなみに腕時計は使っている宝石軸受けの数で、17石や23石なんて言ってましたが、そういうことの延長で、トランジスタが6石なんて言うようになったのかも知れません(あくまでも個人の感想です)。
▼おまけ

下は前の記事の50MHzSSBトランシーバーです。これ以外にもいろいろな物を作ったり買ったりしたのですが、今でも残っているのはこの2台だけです。きちっとケースに入れた物は長生きするようです。