LM317の回路をあれこれ検討、ガリオーム対策と最小負荷電流
◆まえがき
おもちゃ病院用に作ったDC安定化電源ですが、電圧可変用の抵抗が接触不良になった時に最大電圧が出てしまうので、対策した方が良いという話を居酒屋ガレージ日記さんから教えていただきました。
それってめったに起こることでは無い気がしますが、頭の中で考えて想定できることは実際に起きてしまうのがこの世の常です。想定外の現象で大事故発生なんてしょっちゅうあるので、何も対策しない訳にはいきません。
ということで、良い機会なのでLM317の使い方について詳しく調べてみました。この記事は私が気になった点を全部書くつもりなので長文になってしまいそうですがご容赦下さい。
◆問題の回路

この回路図でVR1のスライダーが接触不良になる(図のX部で断線)と、ツマミを右に回しきった電圧が出てしまって危険という話です。
ちなみに、この回路ではVR1の上側をスライダーに接続にしてあるので、R3からの電流のパスが完全に遮断されてしまうことはありません。ここでVR1を2端子接続にしたとしても普通に使う分には問題ありません。しかしそうやると、万一接触不良になった時はフィードバックが効かなくなってしまって高い電圧が出るので危険です。そういう接続になっている回路をよく見かけるので要注意です。
ついでにもう一つ注意点があります。電池を想定して出力電圧を 1.5V, 3V, 4.5V, ・・ と切り替える場合は、ショーティングタイプのロータリースイッチにしておかないと、切り替えの境目で高い電圧が出るのでヤバイです。例えばこの事例はあまり良くないと思います(個人のページならこんな指摘しませんが、マルツさんなら模範になっていて欲しいです。追記:部品表のロータリースイッチのリンク先はショーティングタイプの物が指定されていました。見当違いの指摘をして申し訳ありません。ただ本文中に明記しておいた方が良いと思います。
◆対策案-1
話を戻します。対策としては ADJ ピンをR5で軽くプルダウンしておけば、接触不良になった時に出力電圧が下がるので安全側になります。


接触不良になっても、R5にはADJピンから50μA程度の電流が流れてくるので出力電圧はゼロにはならず1.7Vくらいになりました。
ブレッドボードでテストして大丈夫そうだったのですが、大きな見逃しがありました。それはLM317の最小負荷電流の規格を満足できていない可能性があることです。
◆LM317の最小負荷電流
LM317にはGNDピンが無いので、内部の回路を動作させるための電源はINからOUTに抜ける電流から取るしかありません。そんな事情から最低負荷電流が決まっていて、データーシート上では以下のように規定されています。
・LM317の最低負荷電流

入出力電圧差が40Vの場合、5mA以上流しておかないといけないということになります。ちなみにTyp.は3.5mA、Min.は空欄になっています。
これ大事な値なのでもう少し突っ込んでおきます。LM317のデーターシートのリファレンスの回路ではINとADJピン間の抵抗 (R3) の値は240Ωになっています。これはVref=1.25Vで5mA流すためには250Ωが必要。ここにもう少しマージンを持たせてE24に存在する抵抗値を選ぶと240Ωになる、というロジックで決定されているのだと思います。
あと、これはどこにも書かれていません?が、最低負荷電流を電圧設定のための分圧抵抗に流すという考え方で、R3の値は240Ωにしているのだと思います。もし別の回路に負荷電流が流れているなら、この値(240Ω)はもっと大きくしても差し支えないはずです。
この最小動作電流について更に詳しく見てみます。グラフでは以下のようになっています。
・最小負荷電流のグラフ

入出力の電圧差が変わると最小負荷電流は上のグラフのように変化し、電圧差が小さければ最小負荷電流は小さくても良いということになります。
ちなみに、電圧差が40Vでジャンクション温度が25℃の時の電流は3.5mAで、この値がデーターシートのTyp.値として採用されているようです。max.値の5mAはここに温度や製造バラツキなどを加味して決められたのだと思います。
◆最小負荷電流
Fig-3の回路で無負荷の場合、LM317を通過する電流はR3とVR1の合成抵抗である1.15kΩで決まります。出力電圧が最低値の1.5Vなら負荷電流は1.3mAしか流れないことになります。これでは要求されている電流の 5mAには全然足りません。また上のグラフの電圧差が10Vの場合の電流で見ても1.5mAは必要(Tj=25℃)なので、グラフのTyp.の値すら満たしていないことになります。
そうは言っても実際の素子を使って動かしてみたら大丈夫でした。たぶんデーターシートに書かれている値より実際に市販されている素子の方がずっと特性の良いものが流通している、ということなんでしょう。上に示したLM317の最低負荷電流の表を見ると、最小電流の値が空欄になっています。つまり、少ない電流で動くぶんには問題無いのでスペックを定める必要が無いということです。
あと、デバイスプロセスの進歩で特性の良い素子が作れるようになったので、実はこの最小負荷電流の実力値はもっと良く(小さく)なっているのかも知れません。
そんなことで、自分だけで動かしている分にはFig-3の回路のままで構わないと思います。しかし、ネットに回路の情報を公開している人間としては、データーシートから見て問題のある回路をだまって公開するわけにはいきません。
◆シミュレーションで確認
以上のようなことから回路の状態を詳しく調べたくなりました。実際の回路でやると測定が面倒になるので、LTSpiceを使ったシミュレーションを行ってみました。幸いLT317Aという名前でデバイスモデルが入っていました。
・Fig-3の回路をシミュレーション (クリックで別窓に拡大表示)

(Q1の回路は省略しています)
右のグラフの横軸は可変抵抗の位置。負荷抵抗(R6)を 500,1k、5k、10k、50k、100kΩに変えた時の出力電流(右上)と電圧(右下)の関係をグラフにしています。
右下のグラフの矢印で示した位置で、負荷電流不足で電圧の制御が効かなくなっている様子が見えています。なお判り易くするために電源電圧を20Vに設定しています。
参考:一番上の回路では、ボリュームの回転角に対して電圧は直線で変化します。
◆対策回路
ここまで確認しておけば対策方法を決めるのは簡単です。要はちゃんと負荷電流を流すようにすれば良いので、
・対策-1、バラスト抵抗(R6)を追加

R6を追加してダミー負荷にしています。まあ、当たり前の回路です。
最小出力電圧である1.5Vでも5mAを確保するためにR6の値を300Ωとしました。これは入力電圧が40Vの場合でも大丈夫なようにしたためで、入力電圧が12VならR6は470Ωくらいまで上げても大丈夫です。
・対策-2、定電流負荷

前項の回路では出力電圧に比例してダミー負荷の電流が増えるのでもったいないです。そこで、トランジスタ二つで簡単な定電流負荷を入れたのがこの回路です。Q3のベースのバイアス抵抗(R7)の電源を電圧の高い一次側から持ってくることで定電流特性を改善しています。
・対策-3、ガリオーム対策

最初の回路に可変抵抗の接触不良対策のためにC10を入れた回路です。D2を入れておかないと、出力短絡になった時にADJピンが壊れる恐れがあります。可変抵抗の不良がガリオーム程度で済んでオープンにならないなら、これで行けると思います。
◆まとめ
これまであまり考えないで決めていたLM317の回路定数ですが、今回の検討でそのポイントが良く判りました。今頃そんなこと言ってもLM317自体が絶滅危惧種に近いですが、、
対策回路の案が3つあってどれを選ぶか悩ましいところです。今回の回路は前段の昇圧コンバーターで変換ロスがあるので、ダミーロード(R6)のロスを気にしてもあまり意味がありません。また、出力電圧を9Vで使う時にダミーロードに流れる電流が大きくなりますが、この電圧は006Pの電池代わりに使う時なのであまり大きなパワーは必要ありません。そんなことで、対策-1(Fig-4)の回路で行こうかと思います。えらく長い記事を書いておいて、結論は平凡なものになっていてすみません。
話がややこしくなるので本文中に書かなかったのですが、ここに示した回路では可変抵抗に数ミリアンペアの電流が流れるのがちょっと気持ち悪いです。具体的には、電流によるマイグレーションあるいは電気化学的な反応による接触不良の発生を心配しています。真空管アンプの時代「ボリュームには電流が流れないようにコンデンサで直流成分をカットしなさい」と習ったもんですが、今ではどうなんでしょうね。まあ程度問題なんでしょうが、詳しい方の見解を知りたいもところです。あと、どうせダミー負荷に電流を流すのなら、R3とVR1の値はもっと大きくしておいた方が安全だと思います。(R5とのバランスも要考慮)
おもちゃ病院用に作ったDC安定化電源ですが、電圧可変用の抵抗が接触不良になった時に最大電圧が出てしまうので、対策した方が良いという話を居酒屋ガレージ日記さんから教えていただきました。
それってめったに起こることでは無い気がしますが、頭の中で考えて想定できることは実際に起きてしまうのがこの世の常です。想定外の現象で大事故発生なんてしょっちゅうあるので、何も対策しない訳にはいきません。
ということで、良い機会なのでLM317の使い方について詳しく調べてみました。この記事は私が気になった点を全部書くつもりなので長文になってしまいそうですがご容赦下さい。
◆問題の回路

この回路図でVR1のスライダーが接触不良になる(図のX部で断線)と、ツマミを右に回しきった電圧が出てしまって危険という話です。
ちなみに、この回路ではVR1の上側をスライダーに接続にしてあるので、R3からの電流のパスが完全に遮断されてしまうことはありません。ここでVR1を2端子接続にしたとしても普通に使う分には問題ありません。しかしそうやると、万一接触不良になった時はフィードバックが効かなくなってしまって高い電圧が出るので危険です。そういう接続になっている回路をよく見かけるので要注意です。
ついでにもう一つ注意点があります。電池を想定して出力電圧を 1.5V, 3V, 4.5V, ・・ と切り替える場合は、ショーティングタイプのロータリースイッチにしておかないと、切り替えの境目で高い電圧が出るのでヤバイです。例えばこの事例はあまり良くないと思います(個人のページならこんな指摘しませんが、マルツさんなら模範になっていて欲しいです。追記:部品表のロータリースイッチのリンク先はショーティングタイプの物が指定されていました。見当違いの指摘をして申し訳ありません。ただ本文中に明記しておいた方が良いと思います。
◆対策案-1
話を戻します。対策としては ADJ ピンをR5で軽くプルダウンしておけば、接触不良になった時に出力電圧が下がるので安全側になります。


接触不良になっても、R5にはADJピンから50μA程度の電流が流れてくるので出力電圧はゼロにはならず1.7Vくらいになりました。
ブレッドボードでテストして大丈夫そうだったのですが、大きな見逃しがありました。それはLM317の最小負荷電流の規格を満足できていない可能性があることです。
◆LM317の最小負荷電流
LM317にはGNDピンが無いので、内部の回路を動作させるための電源はINからOUTに抜ける電流から取るしかありません。そんな事情から最低負荷電流が決まっていて、データーシート上では以下のように規定されています。
・LM317の最低負荷電流

入出力電圧差が40Vの場合、5mA以上流しておかないといけないということになります。ちなみにTyp.は3.5mA、Min.は空欄になっています。
これ大事な値なのでもう少し突っ込んでおきます。LM317のデーターシートのリファレンスの回路ではINとADJピン間の抵抗 (R3) の値は240Ωになっています。これはVref=1.25Vで5mA流すためには250Ωが必要。ここにもう少しマージンを持たせてE24に存在する抵抗値を選ぶと240Ωになる、というロジックで決定されているのだと思います。
あと、これはどこにも書かれていません?が、最低負荷電流を電圧設定のための分圧抵抗に流すという考え方で、R3の値は240Ωにしているのだと思います。もし別の回路に負荷電流が流れているなら、この値(240Ω)はもっと大きくしても差し支えないはずです。
この最小動作電流について更に詳しく見てみます。グラフでは以下のようになっています。
・最小負荷電流のグラフ

入出力の電圧差が変わると最小負荷電流は上のグラフのように変化し、電圧差が小さければ最小負荷電流は小さくても良いということになります。
ちなみに、電圧差が40Vでジャンクション温度が25℃の時の電流は3.5mAで、この値がデーターシートのTyp.値として採用されているようです。max.値の5mAはここに温度や製造バラツキなどを加味して決められたのだと思います。
◆最小負荷電流
Fig-3の回路で無負荷の場合、LM317を通過する電流はR3とVR1の合成抵抗である1.15kΩで決まります。出力電圧が最低値の1.5Vなら負荷電流は1.3mAしか流れないことになります。これでは要求されている電流の 5mAには全然足りません。また上のグラフの電圧差が10Vの場合の電流で見ても1.5mAは必要(Tj=25℃)なので、グラフのTyp.の値すら満たしていないことになります。
そうは言っても実際の素子を使って動かしてみたら大丈夫でした。たぶんデーターシートに書かれている値より実際に市販されている素子の方がずっと特性の良いものが流通している、ということなんでしょう。上に示したLM317の最低負荷電流の表を見ると、最小電流の値が空欄になっています。つまり、少ない電流で動くぶんには問題無いのでスペックを定める必要が無いということです。
あと、デバイスプロセスの進歩で特性の良い素子が作れるようになったので、実はこの最小負荷電流の実力値はもっと良く(小さく)なっているのかも知れません。
そんなことで、自分だけで動かしている分にはFig-3の回路のままで構わないと思います。しかし、ネットに回路の情報を公開している人間としては、データーシートから見て問題のある回路をだまって公開するわけにはいきません。
◆シミュレーションで確認
以上のようなことから回路の状態を詳しく調べたくなりました。実際の回路でやると測定が面倒になるので、LTSpiceを使ったシミュレーションを行ってみました。幸いLT317Aという名前でデバイスモデルが入っていました。
・Fig-3の回路をシミュレーション (クリックで別窓に拡大表示)

(Q1の回路は省略しています)
右のグラフの横軸は可変抵抗の位置。負荷抵抗(R6)を 500,1k、5k、10k、50k、100kΩに変えた時の出力電流(右上)と電圧(右下)の関係をグラフにしています。
右下のグラフの矢印で示した位置で、負荷電流不足で電圧の制御が効かなくなっている様子が見えています。なお判り易くするために電源電圧を20Vに設定しています。
参考:一番上の回路では、ボリュームの回転角に対して電圧は直線で変化します。
◆対策回路
ここまで確認しておけば対策方法を決めるのは簡単です。要はちゃんと負荷電流を流すようにすれば良いので、
・対策-1、バラスト抵抗(R6)を追加

R6を追加してダミー負荷にしています。まあ、当たり前の回路です。
最小出力電圧である1.5Vでも5mAを確保するためにR6の値を300Ωとしました。これは入力電圧が40Vの場合でも大丈夫なようにしたためで、入力電圧が12VならR6は470Ωくらいまで上げても大丈夫です。
・対策-2、定電流負荷

前項の回路では出力電圧に比例してダミー負荷の電流が増えるのでもったいないです。そこで、トランジスタ二つで簡単な定電流負荷を入れたのがこの回路です。Q3のベースのバイアス抵抗(R7)の電源を電圧の高い一次側から持ってくることで定電流特性を改善しています。
・対策-3、ガリオーム対策

最初の回路に可変抵抗の接触不良対策のためにC10を入れた回路です。D2を入れておかないと、出力短絡になった時にADJピンが壊れる恐れがあります。可変抵抗の不良がガリオーム程度で済んでオープンにならないなら、これで行けると思います。
◆まとめ
これまであまり考えないで決めていたLM317の回路定数ですが、今回の検討でそのポイントが良く判りました。今頃そんなこと言ってもLM317自体が絶滅危惧種に近いですが、、
対策回路の案が3つあってどれを選ぶか悩ましいところです。今回の回路は前段の昇圧コンバーターで変換ロスがあるので、ダミーロード(R6)のロスを気にしてもあまり意味がありません。また、出力電圧を9Vで使う時にダミーロードに流れる電流が大きくなりますが、この電圧は006Pの電池代わりに使う時なのであまり大きなパワーは必要ありません。そんなことで、対策-1(Fig-4)の回路で行こうかと思います。えらく長い記事を書いておいて、結論は平凡なものになっていてすみません。
話がややこしくなるので本文中に書かなかったのですが、ここに示した回路では可変抵抗に数ミリアンペアの電流が流れるのがちょっと気持ち悪いです。具体的には、電流によるマイグレーションあるいは電気化学的な反応による接触不良の発生を心配しています。真空管アンプの時代「ボリュームには電流が流れないようにコンデンサで直流成分をカットしなさい」と習ったもんですが、今ではどうなんでしょうね。まあ程度問題なんでしょうが、詳しい方の見解を知りたいもところです。あと、どうせダミー負荷に電流を流すのなら、R3とVR1の値はもっと大きくしておいた方が安全だと思います。(R5とのバランスも要考慮)