電源電圧5Vで真空管のLチカを動かす
◆まえがき
このところソフトばかりいじっていたので回路を動かしてみたくなりました。どうせやるなら思いっきり古い部品が良いので、真空管で動くマルチバイブレーターをいじってみることにしました。
真空管のマルチバイブレーターは以前作ったことがあるのですが、これをもっと低い電圧で動かすことにチャレンジしてみました。
◆準備
以前作った時はUSBの5VをDCDCコンバーターで昇圧して25Vで真空管を動かしました、つまりB電圧は25Vでした。ちなみにヒーター電圧のことをA電圧と言いますが、こちらは本来は6.3Vが必要なところを5Vで我慢してもらいました。
使ったのは双三極管の12AX7で、昔は「えっくすなな」とか「ぺけなな」とか呼ばれていた定番の真空管です。12AX7のヒーターは2個直列に接続すれば12.6Vで動かすことが出来るので、まずはこの電圧で動かすのが良さそうです。
・真空管の配線

9ピンのMT菅のソケットがどこかに行っちゃったので、すずめっき線を3重に折り返し、それを真空管の足に沿わせ、上から細めの収縮チューブを被せて締め付けることでリード線を出しました。線さえ出しちゃえばピンヘッダを付けてブレッドボードで動かせるようになります。
ピンヘッダは3極管のグループ毎に4ピンと5ピンの2つに分けたのですが、真空管は中が見えるので、ピンアサインの図面なんか見なくてもどこで分割すれば良いか判ります。
◆B電圧 12.6Vで動かす
・回路図 Fig-1

B電圧を12.6Vにした場合の回路図で、A電圧も12.6Vになっています。真空管のマルチバイブレーターとしては一般的な回路だと思います。
・動いている様子
何とか動きました。高効率の白色LEDを使ったのですが、暗くしか点灯しませんでした。
◆B電圧 5Vで動かす
・調査
何とかB電圧12.6Vで動いたものの、ギリギリで動いている感じでした。オシロで調べるとグリッド電圧がマイナスになっていてプレート電流が流れ難くくなっているのが原因のようでした。
調査のために、プレートに電圧を加えずヒーターだけ点灯させてグリッド電圧を測定すると、マイナス0.6Vくらいになっていました。これってたぶん、カソードから発生した熱電子の雲でグリッドが負に帯電しているのだと思います。
もしプレート電圧が100Vくらいあれば、グリッド電圧が少しくらいマイナスになっても電流は流れるのでしょう。しかし、極めて低いプレート電圧で使う場合はグリッド電圧をプラスにしておいた方が良さそうです。
・回路図 Fig-2
以上のような考え方から、グリッド抵抗を+5Vに接続した下記の回路図にしてみました。

グリッド抵抗(R2, R4)を+5Vに接続しています。B電圧は5Vですが、LEDの順電圧が2.8Vくらいあるのでプレートにかかる電圧は2.2Vくらいしか無いはずです。
この回路図を見るとグリッド電圧が5Vになってしまいそうな気がします。でも大丈夫、カソードからのエミッションがあるのでグリッド電圧は0.1Vくらいまでしか上がりません。実は白状すると、グリッド電圧が上がり過ぎることを心配して最初はダイオードでクランプしてグリッド電圧が0.6V以上に上がらないようにしてみました。しかし動かしてみるとそんなに電圧は上がらなかったのでそんな対策は不要でした。
これでプレート電流が増えたのでLEDはもう少し明るく光るようになりました。(と言ってもプレート電流は50μA程度しか流れません)。あと、マルチバイブレーターとして安定動作する範囲が広くなった感じです。
・ブレッドボード

真空管の回路だけど、B電圧が5Vしか無いので感電しません。あと、極性間違えても絶対に壊れません。
電源電圧5Vの時の消費電流は0.26Aだったので、普通のUSB電源で楽に動かせる範囲です。なお、6.3Vでも問題無く動くことを確認しており、その時の消費電流は0.3Aでした。
また、電源電圧を3.5Vまで下げても動作しました。白色LEDを使っているのでこのあたりが限界だと思います。
・グリッド電圧波形

ON時は約120mV程度。OFF時は-500mVからCRの時定数で上昇し、-200mVまで上がると支えきれなくなって一気にONになるという感じで繰り返していました。
・電源投入時のグリッド電圧変化

電源ON直後のヒーターが温まっていない時はグリッド電圧は+5V(この波形には見えていません)。そこからヒーターが温まると電圧が下がり、発振が始まるとゆっくりと定常状態(一つ上のオシロの波形)に落ち着いて行きました。
・動画
電源スイッチを入れて動き始める様子です。
◆バイポーラトランジスタでも動いた
Fig-2の回路図のグリッドバイアス抵抗はバイポーラトランジスタのベースバイアス抵抗と同じです。

だったらということで、上の写真のようにNPNトランジスタ(2SC1815)に差し替えてみると、発振周期は約8秒と長くなったものの何とか発振しました。
調子に乗ってN-ch MOS FET(2N7000)でもやってみると、こっちはダメでした。ゲートが5Vに吊り上げられちゃうんでチャンネルが完全にONになって身動きできなくなるんでしょう。
◆まとめ
真空管を5Vで動かしてLチカさせることに成功しました。発振しているのでゲインが1倍以上あることが証明出来ていると思います。
この回路はUSBの5Vで動くので簡単に作ることが出来ると思います。展示会などに置いておくと年寄りがホイホイ寄ってくると思います。
久しぶりの真空管を触ったのですが、カソードから発生する熱電子でグリッドが負電圧にバイアスされることをすっかり忘れていました。これ確か、空間電荷効果とか初速電流と言われる話だったような。
このところソフトばかりいじっていたので回路を動かしてみたくなりました。どうせやるなら思いっきり古い部品が良いので、真空管で動くマルチバイブレーターをいじってみることにしました。
真空管のマルチバイブレーターは以前作ったことがあるのですが、これをもっと低い電圧で動かすことにチャレンジしてみました。
◆準備
以前作った時はUSBの5VをDCDCコンバーターで昇圧して25Vで真空管を動かしました、つまりB電圧は25Vでした。ちなみにヒーター電圧のことをA電圧と言いますが、こちらは本来は6.3Vが必要なところを5Vで我慢してもらいました。
使ったのは双三極管の12AX7で、昔は「えっくすなな」とか「ぺけなな」とか呼ばれていた定番の真空管です。12AX7のヒーターは2個直列に接続すれば12.6Vで動かすことが出来るので、まずはこの電圧で動かすのが良さそうです。
・真空管の配線

9ピンのMT菅のソケットがどこかに行っちゃったので、すずめっき線を3重に折り返し、それを真空管の足に沿わせ、上から細めの収縮チューブを被せて締め付けることでリード線を出しました。線さえ出しちゃえばピンヘッダを付けてブレッドボードで動かせるようになります。
ピンヘッダは3極管のグループ毎に4ピンと5ピンの2つに分けたのですが、真空管は中が見えるので、ピンアサインの図面なんか見なくてもどこで分割すれば良いか判ります。
◆B電圧 12.6Vで動かす
・回路図 Fig-1

B電圧を12.6Vにした場合の回路図で、A電圧も12.6Vになっています。真空管のマルチバイブレーターとしては一般的な回路だと思います。
・動いている様子
何とか動きました。高効率の白色LEDを使ったのですが、暗くしか点灯しませんでした。
◆B電圧 5Vで動かす
・調査
何とかB電圧12.6Vで動いたものの、ギリギリで動いている感じでした。オシロで調べるとグリッド電圧がマイナスになっていてプレート電流が流れ難くくなっているのが原因のようでした。
調査のために、プレートに電圧を加えずヒーターだけ点灯させてグリッド電圧を測定すると、マイナス0.6Vくらいになっていました。これってたぶん、カソードから発生した熱電子の雲でグリッドが負に帯電しているのだと思います。
もしプレート電圧が100Vくらいあれば、グリッド電圧が少しくらいマイナスになっても電流は流れるのでしょう。しかし、極めて低いプレート電圧で使う場合はグリッド電圧をプラスにしておいた方が良さそうです。
・回路図 Fig-2
以上のような考え方から、グリッド抵抗を+5Vに接続した下記の回路図にしてみました。

グリッド抵抗(R2, R4)を+5Vに接続しています。B電圧は5Vですが、LEDの順電圧が2.8Vくらいあるのでプレートにかかる電圧は2.2Vくらいしか無いはずです。
この回路図を見るとグリッド電圧が5Vになってしまいそうな気がします。でも大丈夫、カソードからのエミッションがあるのでグリッド電圧は0.1Vくらいまでしか上がりません。実は白状すると、グリッド電圧が上がり過ぎることを心配して最初はダイオードでクランプしてグリッド電圧が0.6V以上に上がらないようにしてみました。しかし動かしてみるとそんなに電圧は上がらなかったのでそんな対策は不要でした。
これでプレート電流が増えたのでLEDはもう少し明るく光るようになりました。(と言ってもプレート電流は50μA程度しか流れません)。あと、マルチバイブレーターとして安定動作する範囲が広くなった感じです。
・ブレッドボード

真空管の回路だけど、B電圧が5Vしか無いので感電しません。あと、極性間違えても絶対に壊れません。
電源電圧5Vの時の消費電流は0.26Aだったので、普通のUSB電源で楽に動かせる範囲です。なお、6.3Vでも問題無く動くことを確認しており、その時の消費電流は0.3Aでした。
また、電源電圧を3.5Vまで下げても動作しました。白色LEDを使っているのでこのあたりが限界だと思います。
・グリッド電圧波形

ON時は約120mV程度。OFF時は-500mVからCRの時定数で上昇し、-200mVまで上がると支えきれなくなって一気にONになるという感じで繰り返していました。
・電源投入時のグリッド電圧変化

電源ON直後のヒーターが温まっていない時はグリッド電圧は+5V(この波形には見えていません)。そこからヒーターが温まると電圧が下がり、発振が始まるとゆっくりと定常状態(一つ上のオシロの波形)に落ち着いて行きました。
・動画
電源スイッチを入れて動き始める様子です。
◆バイポーラトランジスタでも動いた
Fig-2の回路図のグリッドバイアス抵抗はバイポーラトランジスタのベースバイアス抵抗と同じです。

だったらということで、上の写真のようにNPNトランジスタ(2SC1815)に差し替えてみると、発振周期は約8秒と長くなったものの何とか発振しました。
調子に乗ってN-ch MOS FET(2N7000)でもやってみると、こっちはダメでした。ゲートが5Vに吊り上げられちゃうんでチャンネルが完全にONになって身動きできなくなるんでしょう。
◆まとめ
真空管を5Vで動かしてLチカさせることに成功しました。発振しているのでゲインが1倍以上あることが証明出来ていると思います。
この回路はUSBの5Vで動くので簡単に作ることが出来ると思います。展示会などに置いておくと年寄りがホイホイ寄ってくると思います。
久しぶりの真空管を触ったのですが、カソードから発生する熱電子でグリッドが負電圧にバイアスされることをすっかり忘れていました。これ確か、空間電荷効果とか初速電流と言われる話だったような。