双三極管の12AX7を電源電圧5Vで動かす(特性測定とアンプの設計)
◆まえがき
このところ低い電圧で真空管(12AX7)を動かしていろいろな実験をやっています。その電圧は5Vで、こんなに低い電圧で動かした時の特性はデーターシートには掲載されていないので、適当に回路定数を決めていました。そういうインチキな設計でも結構まともに動いている感じだったのですが、もう少しきちんとやりたくなりました。ということで、基本的な特性測定から始めました。
◆12AX7のデーターシート (Fig-1)
まずはデーターシートを見てみます。

(ネットで拾ってきたグラフで出典が判らなくなりましたが、この情報はあちこちに転がっています)
当然ですが、右上がりのラインが並んでいる典型的な三極管の特性になっています。知りたいのはこのグラフの左端の1目盛分の範囲、つまりプレート電圧が5Vまでの領域ですが、このグラフでは細かい挙動が判りません。
◆特性測定
USBの5V電源で動かす場合を想定し、プレート電圧とヒーター電圧の両方を5Vにした時の特性を測定してみました。
・測定の様子

写真に写っているテスター以外に、高精度の電源とデジタルマルチメーターを使いました。
・プレート電圧電流特性 (Fig-2)

グリッド電圧をパラメーターにしたプレート電圧/電流特性の測定結果です。驚いたことに5極管の肩特性のようなカーブになっていました。
あらためてFig-1を見ると、グリッド電圧がゼロボルトの時のカーブは肩特性になっています。Fig-1のグラフで、もしグリッド電圧を0.1Vずつ上げて行けばFig-2と同じ結果になったということになります。なお、fig-1のヒーター電圧は標準の6.3V、Fig-2は5Vという違いがあります。
◆グリッドの特性
グリッド電圧がプラスになるとグリッド電流が流れるようになるので、その挙動を把握しておく必要があります。ということでグリッドの電圧電流特性を測定しました。なお、プレート電圧は3V、ヒーター電圧5Vの条件で測定しています。
・グリッド電圧電流特性 (Fig-3)

出来損ないのダイオードみたいな特性ですが、決定的な違いは電圧ゼロでも僅かに(約3μA)電流を吸い込むことです。これはたぶん熱電子による空間電荷効果によるもので、-0.4Vあたりでこの電流はゼロになりました。
◆簡単なアンプを設計してみる
これで基本的な特性が判ったのでアンプを設計してみます。
・ロードラインの決定 (Fig-4)

プレートのV-I特性が判ったのでロードラインを引いてプレート抵抗を決定出来ます。リニアリティ優先なら上の図のRL=50kΩのライン。電流優先、つまりパワー優先ならRL=6.25kΩのラインあたりが良さそうです。
・グリッドバイアス方法
Fig-4からRL=50kΩの場合グリッド電圧は約0.2Vにすれば良いことが判ります。この電圧を作る方法はいろいろな手がありますが、Fig-3からグリッド電流を20μA流せば良いことが判ります。そこで、5Vから垂らした抵抗から20μAを流す方式でやることにしました。その抵抗値としては 5V/20μA=250kΩを入れることになります。
◆アンプの回路図
以上のような検討結果からアンプを設計してみました。
・5Vで動く12AX7を使ったアンプ (Fig-5)

実は、この記事の目的はこの回路図を作ることでした。なお、抵抗の値はE24にある値に変更しています。
◆動作確認
ファンクションジェネレーターから信号を入れて波形を見てみました。
・20kHz矩形波の応答波形

上が入力で振幅は50mV、下が出力で900mVあります。と言うことはゲインは18倍(25dB)あってまずまずの値です。なお振幅を大きくすると電源電圧の制限で飽和しますが、これは仕方が無いでしょう。
あと、この写真は20kHzの方形波ですが、5μs以内の立ち上がり時間で素直に応答していて、オーディオアンプとしては優秀な性能だと思います。流石は真空管だけあって周波数特性が良いです。
◆まとめ
これまでは勘で適当に回路定数を決めていたのですが、特性測定を行ったので5V動作の12AX7を最適な状態で動かせるようになりました。
真空管は高電圧が必要なイメージがありますが、小信号で使うなら5Vでも結構まともに動いている感じです。この回路でUSB電源で動くヘッドフォンアンプを作ると面白そうです。イヤフォンを鳴らすのはオペアンプでも使わないと無理っぽいですが、前段に使うことで、音の信号のパスに真空中を飛ぶ電子を入れるのはちょっとしたロマンです。
あと、真空管なのでマイクロフォニックノイズを拾う可能性がありますが、それも味と思って楽しむことができるかも知れません。
そういえばKORGからNutubeと言うVFDを使った3極管が出ていますが、狙いは似ています。データーシートを見ると、12AX7はヒーター電力をアホみたいに喰うのとサイズが大きくなりますが、電気特性はあまり変わらない感じでした。
追記:Fig2,Fig4の凡例で0.1Vは1.0Vの誤りでした。
このところ低い電圧で真空管(12AX7)を動かしていろいろな実験をやっています。その電圧は5Vで、こんなに低い電圧で動かした時の特性はデーターシートには掲載されていないので、適当に回路定数を決めていました。そういうインチキな設計でも結構まともに動いている感じだったのですが、もう少しきちんとやりたくなりました。ということで、基本的な特性測定から始めました。
◆12AX7のデーターシート (Fig-1)
まずはデーターシートを見てみます。

(ネットで拾ってきたグラフで出典が判らなくなりましたが、この情報はあちこちに転がっています)
当然ですが、右上がりのラインが並んでいる典型的な三極管の特性になっています。知りたいのはこのグラフの左端の1目盛分の範囲、つまりプレート電圧が5Vまでの領域ですが、このグラフでは細かい挙動が判りません。
◆特性測定
USBの5V電源で動かす場合を想定し、プレート電圧とヒーター電圧の両方を5Vにした時の特性を測定してみました。
・測定の様子

写真に写っているテスター以外に、高精度の電源とデジタルマルチメーターを使いました。
・プレート電圧電流特性 (Fig-2)

グリッド電圧をパラメーターにしたプレート電圧/電流特性の測定結果です。驚いたことに5極管の肩特性のようなカーブになっていました。
あらためてFig-1を見ると、グリッド電圧がゼロボルトの時のカーブは肩特性になっています。Fig-1のグラフで、もしグリッド電圧を0.1Vずつ上げて行けばFig-2と同じ結果になったということになります。なお、fig-1のヒーター電圧は標準の6.3V、Fig-2は5Vという違いがあります。
◆グリッドの特性
グリッド電圧がプラスになるとグリッド電流が流れるようになるので、その挙動を把握しておく必要があります。ということでグリッドの電圧電流特性を測定しました。なお、プレート電圧は3V、ヒーター電圧5Vの条件で測定しています。
・グリッド電圧電流特性 (Fig-3)

出来損ないのダイオードみたいな特性ですが、決定的な違いは電圧ゼロでも僅かに(約3μA)電流を吸い込むことです。これはたぶん熱電子による空間電荷効果によるもので、-0.4Vあたりでこの電流はゼロになりました。
◆簡単なアンプを設計してみる
これで基本的な特性が判ったのでアンプを設計してみます。
・ロードラインの決定 (Fig-4)

プレートのV-I特性が判ったのでロードラインを引いてプレート抵抗を決定出来ます。リニアリティ優先なら上の図のRL=50kΩのライン。電流優先、つまりパワー優先ならRL=6.25kΩのラインあたりが良さそうです。
・グリッドバイアス方法
Fig-4からRL=50kΩの場合グリッド電圧は約0.2Vにすれば良いことが判ります。この電圧を作る方法はいろいろな手がありますが、Fig-3からグリッド電流を20μA流せば良いことが判ります。そこで、5Vから垂らした抵抗から20μAを流す方式でやることにしました。その抵抗値としては 5V/20μA=250kΩを入れることになります。
◆アンプの回路図
以上のような検討結果からアンプを設計してみました。
・5Vで動く12AX7を使ったアンプ (Fig-5)

実は、この記事の目的はこの回路図を作ることでした。なお、抵抗の値はE24にある値に変更しています。
◆動作確認
ファンクションジェネレーターから信号を入れて波形を見てみました。
・20kHz矩形波の応答波形

上が入力で振幅は50mV、下が出力で900mVあります。と言うことはゲインは18倍(25dB)あってまずまずの値です。なお振幅を大きくすると電源電圧の制限で飽和しますが、これは仕方が無いでしょう。
あと、この写真は20kHzの方形波ですが、5μs以内の立ち上がり時間で素直に応答していて、オーディオアンプとしては優秀な性能だと思います。流石は真空管だけあって周波数特性が良いです。
◆まとめ
これまでは勘で適当に回路定数を決めていたのですが、特性測定を行ったので5V動作の12AX7を最適な状態で動かせるようになりました。
真空管は高電圧が必要なイメージがありますが、小信号で使うなら5Vでも結構まともに動いている感じです。この回路でUSB電源で動くヘッドフォンアンプを作ると面白そうです。イヤフォンを鳴らすのはオペアンプでも使わないと無理っぽいですが、前段に使うことで、音の信号のパスに真空中を飛ぶ電子を入れるのはちょっとしたロマンです。
あと、真空管なのでマイクロフォニックノイズを拾う可能性がありますが、それも味と思って楽しむことができるかも知れません。
そういえばKORGからNutubeと言うVFDを使った3極管が出ていますが、狙いは似ています。データーシートを見ると、12AX7はヒーター電力をアホみたいに喰うのとサイズが大きくなりますが、電気特性はあまり変わらない感じでした。
追記:Fig2,Fig4の凡例で0.1Vは1.0Vの誤りでした。
- 関連記事
-
- テレビにサブウーハーを追加、回路検討編
- 12AX7とNutubeを、低い電圧で動かした場合の特性を比較してみた
- 双三極管の12AX7を電源電圧5Vで動かす(特性測定とアンプの設計)
- PAM8403搭載のローコストデジタルアンプモジュールを購入
- Lepaiのデジタルアンプ、LP-2020A+を購入