電池タブ溶接機を使ったコイルガン(製作編)
◆まえがき
電池タブ溶接機を制御回路に使ったコイルガンを作ってその性能を確かめてみました。なお、先にお断りしておきますが、たいした弾速は出ていません。
◆駆動方式
コイルガンの多くは大容量のコンデンサを高電圧でチャージし、サイリスタで一気に放電させることで強力な磁界を発生させています。このやり方が作り易いということなんだと思いますが、瞬間的に大電流を流すのだったら鉛バッテリーを使った溶接機でも出来ます。また、溶接機なのでパルス幅を簡単に制御出来るので駆動条件の最適化などが簡単に出来そうです。
最近は大電流に耐えるパワーFETが安くなっており、電池のタブ溶接機は1000円台から買えるようになっています。つまり以前より手軽に入手が可能で、実は私も持っています→電池タブ溶接機を購入
そんなことで、実際にタブの溶接機でコイルガンを作って、どんな性能の物が出来るのか確かめてみることにしました。なお、使った溶接機は壊れた(壊した)回路を修理した物でパルス幅を可変抵抗で調整出来るようになっています。
◆回路図
タブ溶接機の出力にコイルガンのコイルを接続しただけです。パルス幅をスイッチで10msと100msの2つのレンジで切り替えられるようになっていますが、コイルガンでは10msレンジを使います。
コイルのキックバック吸収用のD100のダイオードはこの型番で良いのかちゃんと確認していないのですが、手持ちの中で丈夫そうな物を付けておきました。
使ったバッテリーは12Vの鉛バッテリーの3.4Ahです。もっと容量の大きな物の方が良いのですが、手持ちがこれしか無かったです。因みに溶接機の仕様では、バッテリーの容量の上限は「中古の42Ah」までとなっています。
◆外観
右上がバッテリー、左が溶接機の制御回路。下の緑色の部品が発射用のコイルで、右下の箱に弾丸を打ち込みます。これ以外に弾速測定用のオシロと、コイルの電圧波形測定用のオシロを接続しています。なお、実験中のバッテリーの状態を一定に保つため、14.4V/1Aでフローティング充電を行っています。
なお、弾速計の部分はこちらの記事参照ください。
◆発射コイルと弾丸
ダミーロードを使った放電テストで、このバッテリーと溶接機の内部抵抗は20mΩ程度であることが判っています。最大電力を得るためには負か抵抗に値を電源の内部抵抗と同じくらいにするのがセオリーなので、コイルの直流抵抗は20mΩを目安にして作ることにしました。
コイルにはΦ1mmのポリウレタンを使い、外径8mm程度の樹脂パイプに巻きました。パイプの内径は約6mmで弾丸はその穴を通るサイズと言うことで、Φ5mm長さ11mmの軟鉄を使いました。(キャンプで使う鉄製のペグを切断して作りました)
以下作ったコイルを紹介します。
・コイルA(弾速:8.3m/s)
14.2mH、53.6mΩ、コイル長24.5mmです。
Φ1mmの線を外径8mmのボビンに巻いた物です。
・コイルB(弾速:9.4m/s)
20μH、50mΩ。
上記と同じ量の線を巻き幅を狭くして巻いたものです。
・コイルC(弾速:12.5m/s)
17.2μH, 26.5mΩ、60ターン
線を2本並列巻きにして直流抵抗を減らしています。更に外側に鉄の針金をいっぱい置いてヨークを形成して磁界の通路を作っています。こうすると磁気抵抗が減るので中心磁界が強くなり弾速が上がります。なお、絶縁された針金を使ったのは渦電流損を減らすためです。ちなみにダイソーで売っている外径Φ1.8、芯線径Φ1.2くらいのビニール被覆の針金を適当に切って使いました。
この写真に映っているのが発射する弾丸で、Φ5mmの鉄の棒(テントの金属ペグ)を長さ11mmに切断した物です。長ネジは弾をセットするための治具で、ネジの部分を使って弾を押し込むことで一定の位置にセットすることが出来るようにしています。ちなみに弾のセット位置は重要で0.5mmくらいの位置の差で弾速が大きく変わってきます。
◆動作時の波形
・コイル電圧波形(左が弾無し、右は弾有り)
5V/div、500us/div、左が弾無し、右は弾有り
最初はバッテリーの電圧(14V)がかかり、時定数400μs程度でコイル抵抗で決まる電圧に落ち着いています。コイルのインダクタンスは数十μHなので、コイルの効果だけならもっと短い時間で電圧が収束するはずです。変化に400μsかかっているのはバッテリーの電解液中のイオンの移動が関係している気がしますが、正確には良く判りません。
安定時の電圧は7V程度。コイル抵抗が26.5mΩなのでコイルの電流は264Aということになります。また、コイルの巻き数は60回なので起磁力は 15840アンペアターンと言うことになります。
波形がマイナス側に振れているのはコイルのキックバック電流の影響だと思います。弾がある時(通過した時)はマイナスに振れている時間が長くなっているのは、鉄の弾丸の存在でインダクタンスが大きくなっていることを示しているのだと思います。
・バッテリー電圧
14Vあった電圧が通電開始と共に低下し、9V位まで低下しています。コイル両端の電圧は7Vだったので差の約2VがパワーFETや配線などによる電圧ドロップと言うことになります。
・コイル電圧と弾速測定波形
上がコイル電圧、下が弾速測定波形です。
この波形から、コイルに電圧を加えて弾の加速が始まり、弾が弾速測定部を通過するまでの時間が判ります。タイミングを詳しく調べることで弾丸の加速時間も判るはずです。
◆まとめ
これでタブ溶接機を使ったコイルガンの原理モデルが完成しました。
得られた弾速は最高で12.5m/sで、時速で表すと45km/hでした。高級な仕掛けの割には大した速度は出ていません。これだったら手で投げた方が速いです。なお、弾の重さは1.75gなのでエネルギーは0.17Jです。
もっと強力なバッテリーを使えば弾速は上がるはずですが、重くなってしまうのが難点です。リチウムイオン電池のジャンプスターターを使うのが良さそうです。
次回の記事ではパルス幅や充填位置に対する弾速などの性能についてまとめたいと思います。
- 関連記事
-
- コイルガン用のLED曳光弾の製作
- 誘導電流で1円玉を飛ばす
- 電池タブ溶接機を使ったコイルガン(特性測定偏)
- 電池タブ溶接機を使ったコイルガン(製作編)
- LEDを光センサーに使った弾速計の製作