セルシンの受信機を作ってみるも失敗
◆まえがき
DCブラシモーターの回転子を使ってかご型誘導モーターの原理説明モデルを作ったのですが、その時に作った3相のフルブリッジの駆動回路でもう少し遊んでみることにします。と言うか実はこっちを最初に始めてたりします。
◆セルシン
セルシン レゾルバとも呼ばれていて、現在のように電子回路が発達していなかった時代に回転角度を遠方に伝達するために使われた仕掛けです。
・原理図

図のよう固定された二次巻き線に発生する電圧(と位相)を送り、受信機側で角度として再現させる仕掛けです。
本来は図のように交流で動かす物ですが、受信側だけなら、直流で回転磁界の角度を再現させることで指針は永久磁石でも動くはずです。さらに、回転子と固定子を入れ替えると、模型のブラシモーターの構造とほぼ同じになるので簡単に実験することが出来そうです。
◆セルシン受信機
DVDのドライブのトレイの駆動モーターだったと思いますが、構造はDCブラシモーターです。このシャフト(プーリー)を固定して使います。つまりモーターの外側を回転させます。
コイルに配線を接続して通電できるようにします。なお、整流子は使いません。
◆駆動回路
3相フルブリッジの駆動回路で、3相かご型モーターの実験を行った時と全く同じ回路です。
◆ソフト
// DVDスピンドルの3相アナログ駆動テスト // 20221230_3PhaseSteppingMoter #define MAG_POW 70 // 励磁パワー (0-120の値で指定) void setup() { Serial.begin(115200); angle(0, 5000); delay(1000); } void loop() { // Serial.println(millis()); for (int a = 0; a < 360 * 2; a += 1) { angle(a, 400); // 角度a に移動して指定時間待機 } delay(1000); for (int a = 360 * 2; a > 0; a -= 1) { angle(a, 400); } delay(1000); } void angle(int a, int tt) { // 指定された位相でコイルを駆動.位相は度の値で指定 int r, s, t; float pow_r, pow_s, pow_t; pow_r = cos(PI * a / 180.0); // 駆動位相をラジアンに変換 pow_s = cos(PI * (a + 120 ) / 180.0); // +120度 pow_t = cos(PI * (a - 120 ) / 180.0); // -120度 r = (pow_r * MAG_POW) + 125; // 振幅125±120でスイング(255近傍は怪しいので避ける) s = (pow_s * MAG_POW) + 125; t = (pow_t * MAG_POW) + 125; analogWrite( 9, r); // アナログ(PWM)出力 analogWrite(10, s); analogWrite(11, t); delayMicroseconds(tt); Serial.print(r); Serial.print(", "); Serial.print(s); Serial.print(", "); Serial.println(t); }
かご型モーターの原理説明モデルではON/OFF制御でしたが、今回は連続的に変化する電圧で駆動する必要があるので三角関数で値を求めPWMによるアナログ制御を行っています。なお、角度で1度刻みの値で出力しています。
PWMの振幅は125を中央値とした値で設定しており、その最大振幅は MAG_POW の値で指定出来るようにしています。なお、255までフルスイングさせていないのは、応答が不連続になるという噂を聞いたためです。
◆出力波形
三相波形です。
◆動作結果
既にツイッターに動画を書き込んでいるのでそっちを見て頂いた方が手っ取り早いです。
DCブラシモーターを改造してセルシンの受信機が作れないか検討してきたのですが、回転ムラの問題が解決出来そうも無いので中止します。
— ラジオペンチ (@radiopench1) December 29, 2022
磁界の分布が予想外だった、と言うかよく考えたら無理がありました。やってみないと判らないので、良い経験にはなりました。 pic.twitter.com/ChvDT4Irjd
1回転の中で3箇所くらい引っかかる角度があって滑らかに回っていません。これでは細かい角度の伝達には使えそうもありません。回転回数を伝えるだけならこれでもOKですが、それだったらこんなややこしいことしなくても、簡単な方法がいっぱいあります。
◆考察
滑らかに回転しないのは磁界の分布に原因がありそうです。外側の永久磁石はその中央付近で磁束密度が高くなっていて欲しいのですが、実際には平坦な磁界分布になっていると思われます。また、中の固定子の先端は平坦(というか円周面}になっているので、その範囲内の磁界の強さはほぼ一定になっていると考えられます。
これらのことから、相互の磁界が平坦な部分が対向する領域では引き込みトルクが小さくなってしまい、回転ムラが発生すると考えて良さそうです。つまり、最初から無理のある試みだったということになります。
私は本物のセルシンを見たことが無いのですが、たぶんその固定子の巻き線は、誘導モーターの界磁コイルのように亀甲型のコイルを順次ずらして巻いてあって、つまり重ね巻きになっていて、磁界分布が正弦波になるような構造になっているのだと思います。
以上、もう一度まとめると、この構造では本物のセルシンのような滑らかな角度の表現は出来ません。とは言っても誤差は30度も無く、累積もしないので用途によっては使える局面があるかも知れません。
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