アンパンマン NEWわくわくクレーンゲーム (おもちゃ修理)
地元の自治体が開催するおもちゃ病院のドクターをやっています。おもちゃの修理ではネットを検索して修理方法の参考にすることが効果的で、他のドクターさんが書かれた記事に助けられることがよくあります。ということで、恩返しを兼ねて私が担当したおもちゃの中で、参考になりそうなものをこのブログで紹介していきたいと思います。
今回の記事は、アンパンマン NEWわくわくクレーンゲーム(アガツマ製)です。このおもちゃのアマゾンへリンク
故障の症状としては「パケットが上下しない、開かないことがある」 というものです。
▼アンパンマン NEWわくわくクレーンゲーム

おもちゃのクレーンゲームにはいろんなタイプがあるようですが、これは比較的新しく販売された物のようで、ネットでもこのおもちゃを修理した記事はあまり見かけませんでした。(あくまでも2017年8月時点の話です)
▼ギアボックスのフタを開ける

ギアボックスの中身が見えるまで分解を進めます。この写真はギアボックスの上の蓋を開けた状態です。他のクレーンゲームでは、この状態でチェーンの巻取りドラムの状態が判る点検窓があるようなのですが、このおもちゃにはそのような窓はありません。
この写真に見えているケース(B)を開けないとギアボックスの中身は見えないのですが、ケース(B)は下のギアボックスの軸受けを兼ねているので、これを外した状態ではメカを動かすことが出来ません。つまり巻取りドラムの動作状態を目で見て確かめることが出来ない訳で、ここはぜひ点検窓を復活させてもらいたいです。
▼巻き上げ機構

ケース(B)を開けると巻き上げメカが出てきます。
奥のオレンジ色の部品がチェーンの巻き上げドラムで、右側がモーター直結、左はヒステリシスを持った動き(遅れ動作)をするドラムです。二つのドラムの動きのズレを利用してパケットの上下と開閉を行っています。
なお、ネットの記事を見ると、以前のバージョンでは右側のドラムの更に右側にギアがあり、ここに上死点下死点を決めるストッパーがあったようです。でもこのおもちゃにはそのような仕掛けはありません。そういうもの使わなくても、パケットが上死点に達するとそれ以上チェーンを巻けなくなるので、それをストッパー代わりにしたようです。
こういう機構にするとチェーンに大きな力が加わるのが心配ですが、一方で上死点/下死点を決めるストッパーの調整は不要になるというメリットがあります。それに部品も減るのですから、こういう方向に進化(退化?)していくのも仕方ないでしょう。
なお、巻き上げドラムの制御にはセンサーなどは使っておらず、タイマーだけで行っているようです。つまり一定時間回せばパケットが下がって開いて、閉じて、巻き上げ動作が行われます。次のサイクルではモーターを逆転させて同じことをやらせています。もちろんタイマーの時間は余裕を持たせた時間が設定されていますが、言い換えると上死点まで巻き上げられてもタイムアップするまでモーターは廻り続けることになります。
▼巻き上げギアの歯が変形

はんだコテか何かを触れたのでしょうか、ギアが変形していました。最初はこれが動作不良の原因かと思ったのですが、どうもこれは不良の原因では無かったようです。ただこのままでは不安なので、歯型をナイフで修正し、相手の歯車のシャフトに薄いワッシャを入れて噛み合い位置を少し左にずらして応急処置しておきました。
ここまでが分解と応急処置で、以下が修理した内容です。
◆処置-1 ディテントロックバネ圧強化 (この処置は不要かも?)

右側のオレンジ色のドラムはモーター直結。左側のオレンジ色のドラムは位相遅れで動きます。左のドラムを待機させたい時にパケットの重さなどで勝手に動いては困るので歯車にディテントロックがかかっています。このロックが弱いと左側のドラムが回転してしまってパケットの開閉がおかしくなります。そこで写真のように板バネに詰め物をして実質的な長さを短くしてバネ圧を上げてやりました。詰め物は短く切った爪楊枝を使い、動かないようにホットボンドで固定しました。
なお、この処置はやらなくてもよかったかも知れません。後で説明します。
◆処置-2 トルクリミッターの改造(トルクアップ)
巻き上げ機構の中にトルクリミッターが入っているのですが、この伝達トルクが小さいため、巻き上げドラムを正常に動かすことが出来ないことがあるようです。たぶんこれが問題の最大の原因のような気がしますが、以下のように処置しました。
▼トルクリミッター

この写真は説明用にトルクリミッターのクラッチ面にナイフの刃を入れています。下側の大歯車がシャフトに固定されていて、小歯車はクラッチを介して回転する構造になっています。
減速ギアボックスの出力段にこのトルクリミッターが設置されています。ここでトルクを制限して無理な力が加わらないようになっているのですが、どうもこのトルクの設定値が低すぎるようです。つまり、このトルクリミッターが空回りするために、正常なパケット動作にならないようです。
たぶん購入直後は問題無いのでしょうが、クラッチ面が馴染んでくると摩擦が減って伝達トルクが下り、不具合が発生するのかも知れません。
▼クラッチバネ強化

トルクリミッターの伝達トルクアップのためにクラッチの押し付けバネ力を上げました。具体的には、直径0.85mm の針金(軟鉄線)を上の写真のように巻き付けてクラッチのバネを圧縮しました。
針金は、先端を2/3回転くらい廻したフック状にしてバネ部に巻き込み、そのまま回転させてバネの先端に移動。その後所定の長さに切断してペンチで整形しました。なお、針金の太さでトルクの調整が可能で、最初はφ0.65mmの針金を入れたのですがこれではトルク不足だったのでφ0.85mmの物にしました。もし適当なサイズのEリングがあれば、何枚か挿すことで、もっとスマートに処置出来たと思います。
◆処置-3 パケットつり上げチェーンの外れ防止 (この項は写真無し)
下死点位置ではチェーンがたるむため、チェーン末端のリングがパケットのフックから外れそうになります。万一ここが外れると、たぶんパパが直すことになると思いますが、この修理はかなり大変です。こういう問題が起こらないようにするため、チェーンの先のリングを取り付けた後で、パケットにリングを入れる部分のギャップをホットボンドで閉じておきました。
これで修理完了です。以下は補足説明です。
▼移動用のギア

これは巻き上げギアの下の段で、クレーンを前後/左右に移動させるメカです。本物のクレーンで走り装置と言われている部分です。
巻き上げ部の故障だけならここまで分解する必要は無いのですが、実は作業中にモーターの配線が一本切れてしまったのでここを開けるはめに陥りました。
▼走り装置のトルクリミッタ

こちらの各軸にもトルクリミッタが取り付けられています。なお、この写真のようにシャフトの長さが違うので、間違えると組み立てることが出来ません。あと、今気付いたのですが、バネの巻き数が違うのでトルクの設定値が違うのかも知れません。
▼モーター直結でクレーンのテスト

先人のドクターさんの記事を読むと、修理の前にモーターの配線6本を10cmくらい延長すると作業が楽になるということが書かれています。確かにそうなんでしょうが、面倒です。
ということで手抜きしてこの写真のように、巻き上げモーターの配線だけ外し、外部電源で直接モーターを回して動作確認を行いました。正規の手順で巻き上げモーターを動かすためには、電源投入後原点復帰がかかり、その後コインを入れ、X軸、Y軸の順でスイッチを操作する必要があり、かなり面倒です。でもこの写真のように直結にすれば、いきなりモーターを正逆に廻せるので便利です。なお電源の電池は単1x3本なので、外部電源の電圧は4.5Vにしました。
◆あれこれ
処置-1のディテントロックバネ圧強化はやらなくてもよい可能性が高いです。というのは、最初はトルクリミッターが空回りする原因は、このディテントロックが強すぎるためと考えて、ディテントロックの爪を削ってしまった経緯があります。結果としてロックを弱くし過ぎてしまったので再度爪を再生させています(PPのプラ板を差し込み、熱溶着)。たぶんここは最初の部品の状態で大丈夫だと思いますが、もしディテントロックが弱くてパケットの開閉がうまくいっていない場合は、この例のように処置すれば調整可能です。
アマゾンのこのおもちゃのカスタマレビューを読むと、壊れやすいという話が多いです。確かにメカの駆動音が大きくていかにも壊れそうな感じです。もう少しすっと動いてくれるといいのですがコストの問題で難しいのでしょうか、でも結構値段の高いおもちゃなんですが。あと、ギアボックス内に大量にオイルが入っていたのは故障と騒音対策のためかも知れません。
この修理ではトルクリミッターの伝達トルクアップを行いましたが、この改造により他の部分に無理がかかってそっちが壊れないか、一抹の不安はあります。
◆まとめ
ということで、アンパンマンの NEWわくわくクレーンゲームの修理完了しました。これと同じ設計の物ががいつまで販売されるか判りませんが、どこかのおもちゃドクターさんの参考になれば幸いです。
あと、それは違うぞ!などのご指摘がありましたらコメントで教えて頂くと嬉しいです。
今回の記事は、アンパンマン NEWわくわくクレーンゲーム(アガツマ製)です。このおもちゃのアマゾンへリンク
故障の症状としては「パケットが上下しない、開かないことがある」 というものです。
▼アンパンマン NEWわくわくクレーンゲーム

おもちゃのクレーンゲームにはいろんなタイプがあるようですが、これは比較的新しく販売された物のようで、ネットでもこのおもちゃを修理した記事はあまり見かけませんでした。(あくまでも2017年8月時点の話です)
▼ギアボックスのフタを開ける

ギアボックスの中身が見えるまで分解を進めます。この写真はギアボックスの上の蓋を開けた状態です。他のクレーンゲームでは、この状態でチェーンの巻取りドラムの状態が判る点検窓があるようなのですが、このおもちゃにはそのような窓はありません。
この写真に見えているケース(B)を開けないとギアボックスの中身は見えないのですが、ケース(B)は下のギアボックスの軸受けを兼ねているので、これを外した状態ではメカを動かすことが出来ません。つまり巻取りドラムの動作状態を目で見て確かめることが出来ない訳で、ここはぜひ点検窓を復活させてもらいたいです。
▼巻き上げ機構

ケース(B)を開けると巻き上げメカが出てきます。
奥のオレンジ色の部品がチェーンの巻き上げドラムで、右側がモーター直結、左はヒステリシスを持った動き(遅れ動作)をするドラムです。二つのドラムの動きのズレを利用してパケットの上下と開閉を行っています。
なお、ネットの記事を見ると、以前のバージョンでは右側のドラムの更に右側にギアがあり、ここに上死点下死点を決めるストッパーがあったようです。でもこのおもちゃにはそのような仕掛けはありません。そういうもの使わなくても、パケットが上死点に達するとそれ以上チェーンを巻けなくなるので、それをストッパー代わりにしたようです。
こういう機構にするとチェーンに大きな力が加わるのが心配ですが、一方で上死点/下死点を決めるストッパーの調整は不要になるというメリットがあります。それに部品も減るのですから、こういう方向に進化(退化?)していくのも仕方ないでしょう。
なお、巻き上げドラムの制御にはセンサーなどは使っておらず、タイマーだけで行っているようです。つまり一定時間回せばパケットが下がって開いて、閉じて、巻き上げ動作が行われます。次のサイクルではモーターを逆転させて同じことをやらせています。もちろんタイマーの時間は余裕を持たせた時間が設定されていますが、言い換えると上死点まで巻き上げられてもタイムアップするまでモーターは廻り続けることになります。
▼巻き上げギアの歯が変形

はんだコテか何かを触れたのでしょうか、ギアが変形していました。最初はこれが動作不良の原因かと思ったのですが、どうもこれは不良の原因では無かったようです。ただこのままでは不安なので、歯型をナイフで修正し、相手の歯車のシャフトに薄いワッシャを入れて噛み合い位置を少し左にずらして応急処置しておきました。
ここまでが分解と応急処置で、以下が修理した内容です。
◆処置-1 ディテントロックバネ圧強化 (この処置は不要かも?)

右側のオレンジ色のドラムはモーター直結。左側のオレンジ色のドラムは位相遅れで動きます。左のドラムを待機させたい時にパケットの重さなどで勝手に動いては困るので歯車にディテントロックがかかっています。このロックが弱いと左側のドラムが回転してしまってパケットの開閉がおかしくなります。そこで写真のように板バネに詰め物をして実質的な長さを短くしてバネ圧を上げてやりました。詰め物は短く切った爪楊枝を使い、動かないようにホットボンドで固定しました。
なお、この処置はやらなくてもよかったかも知れません。後で説明します。
◆処置-2 トルクリミッターの改造(トルクアップ)
巻き上げ機構の中にトルクリミッターが入っているのですが、この伝達トルクが小さいため、巻き上げドラムを正常に動かすことが出来ないことがあるようです。たぶんこれが問題の最大の原因のような気がしますが、以下のように処置しました。
▼トルクリミッター

この写真は説明用にトルクリミッターのクラッチ面にナイフの刃を入れています。下側の大歯車がシャフトに固定されていて、小歯車はクラッチを介して回転する構造になっています。
減速ギアボックスの出力段にこのトルクリミッターが設置されています。ここでトルクを制限して無理な力が加わらないようになっているのですが、どうもこのトルクの設定値が低すぎるようです。つまり、このトルクリミッターが空回りするために、正常なパケット動作にならないようです。
たぶん購入直後は問題無いのでしょうが、クラッチ面が馴染んでくると摩擦が減って伝達トルクが下り、不具合が発生するのかも知れません。
▼クラッチバネ強化

トルクリミッターの伝達トルクアップのためにクラッチの押し付けバネ力を上げました。具体的には、直径0.85mm の針金(軟鉄線)を上の写真のように巻き付けてクラッチのバネを圧縮しました。
針金は、先端を2/3回転くらい廻したフック状にしてバネ部に巻き込み、そのまま回転させてバネの先端に移動。その後所定の長さに切断してペンチで整形しました。なお、針金の太さでトルクの調整が可能で、最初はφ0.65mmの針金を入れたのですがこれではトルク不足だったのでφ0.85mmの物にしました。もし適当なサイズのEリングがあれば、何枚か挿すことで、もっとスマートに処置出来たと思います。
◆処置-3 パケットつり上げチェーンの外れ防止 (この項は写真無し)
下死点位置ではチェーンがたるむため、チェーン末端のリングがパケットのフックから外れそうになります。万一ここが外れると、たぶんパパが直すことになると思いますが、この修理はかなり大変です。こういう問題が起こらないようにするため、チェーンの先のリングを取り付けた後で、パケットにリングを入れる部分のギャップをホットボンドで閉じておきました。
これで修理完了です。以下は補足説明です。
▼移動用のギア

これは巻き上げギアの下の段で、クレーンを前後/左右に移動させるメカです。本物のクレーンで走り装置と言われている部分です。
巻き上げ部の故障だけならここまで分解する必要は無いのですが、実は作業中にモーターの配線が一本切れてしまったのでここを開けるはめに陥りました。
▼走り装置のトルクリミッタ

こちらの各軸にもトルクリミッタが取り付けられています。なお、この写真のようにシャフトの長さが違うので、間違えると組み立てることが出来ません。あと、今気付いたのですが、バネの巻き数が違うのでトルクの設定値が違うのかも知れません。
▼モーター直結でクレーンのテスト

先人のドクターさんの記事を読むと、修理の前にモーターの配線6本を10cmくらい延長すると作業が楽になるということが書かれています。確かにそうなんでしょうが、面倒です。
ということで手抜きしてこの写真のように、巻き上げモーターの配線だけ外し、外部電源で直接モーターを回して動作確認を行いました。正規の手順で巻き上げモーターを動かすためには、電源投入後原点復帰がかかり、その後コインを入れ、X軸、Y軸の順でスイッチを操作する必要があり、かなり面倒です。でもこの写真のように直結にすれば、いきなりモーターを正逆に廻せるので便利です。なお電源の電池は単1x3本なので、外部電源の電圧は4.5Vにしました。
◆あれこれ
処置-1のディテントロックバネ圧強化はやらなくてもよい可能性が高いです。というのは、最初はトルクリミッターが空回りする原因は、このディテントロックが強すぎるためと考えて、ディテントロックの爪を削ってしまった経緯があります。結果としてロックを弱くし過ぎてしまったので再度爪を再生させています(PPのプラ板を差し込み、熱溶着)。たぶんここは最初の部品の状態で大丈夫だと思いますが、もしディテントロックが弱くてパケットの開閉がうまくいっていない場合は、この例のように処置すれば調整可能です。
アマゾンのこのおもちゃのカスタマレビューを読むと、壊れやすいという話が多いです。確かにメカの駆動音が大きくていかにも壊れそうな感じです。もう少しすっと動いてくれるといいのですがコストの問題で難しいのでしょうか、でも結構値段の高いおもちゃなんですが。あと、ギアボックス内に大量にオイルが入っていたのは故障と騒音対策のためかも知れません。
この修理ではトルクリミッターの伝達トルクアップを行いましたが、この改造により他の部分に無理がかかってそっちが壊れないか、一抹の不安はあります。
◆まとめ
ということで、アンパンマンの NEWわくわくクレーンゲームの修理完了しました。これと同じ設計の物ががいつまで販売されるか判りませんが、どこかのおもちゃドクターさんの参考になれば幸いです。
あと、それは違うぞ!などのご指摘がありましたらコメントで教えて頂くと嬉しいです。
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