ダイソーの500円モバイルバッテリー (回路調査)
ダイソーの500円モバイルバッテリーを買って便利に使っています。300円の物と比べると薄くて持ち運びやすいので気に入ってます。
▼ダイソーの500円モバイルバッテリー

この商品に対するネットの評価はさまざまですが、たまたま見た、ダイソーの「500円モバイルバッテリー」をガチ検証してみた結果 と言う記事によると、“お値段なりかそれ以下のモバイルバッテリー” という評価です。内容としては、特に出力のリップルがめちゃめちゃ大きい、というレポになっています。
でも、私が使った限りではそんな問題は感じず、普通に使えています。とは言っても、記事には高級そうな測定器で測ったグラフ付きで報告されているので、情報の信ぴょう性は高そうです。
こうなると自分で調べてみるしかありません。ということで、調べ始めました。
以下報告ですが、内容がややこしいので今回は基本的な確認まで行うことにしました。実際の特性の測定は、次回以降の記事で行いますのでご了承ください。
▼殻割り

ケースの隙間を強引にこじ開けましたが、内部はプラスチックの爪で固定されていて、いくつかの爪はちぎれてしまいました。でも爪はたくさんあるので、残った爪だけでたぶん大丈夫でしょう。
中にはラミネートタイプのリチウム電池が入っていました。電池は強力な両面テープで固定されているので、角を少し浮かせ、隙間にエタノールをアトマイザで噴霧して徐々に剥がしました。上の写真の右の半透明な容器がエタノールを入れたアトマイザです。ここでマイナスドライバーなど金属で電池を ”こじる” と、電池に深刻なダメージを与える可能性が高いので、割りばしを削った物など、柔らかい物をヘラ代わりに使って少しずつ剥がした方が安全です。
▼基板

XB8686Eというマーキングの8ピンのICと、TP4361Bというマーキングの16ピンのICが使われていました。まずはこのICの素性を調べてみました。
いつもならパターンを追っておおざっぱな回路図を書きます。でもこの基板は電池が外せないし、ちょっとしたことでDC-DCコンバーターが起動します。テスターで導通を当たっている最中に回路が動き出すと、テスターを壊しそうです。そんなことで、今回は回路図作りは止めました。
ただ、メーカーの推奨回路図が発見出来たので、どういう配線になっているかはほとんど判りました。
▼XB8686Eの推奨回路図 (データーシートから抜粋)

これはリチウムイオン電池の保護用チップでした。単セルリチウム電池の保護回路に入っているICと同じ物のようで、過電圧、過電流、過放電などに対する保護を行います。300円のモバイルバッテリーにはこういうチップは入っていなかったので、一段安全性が高くなったような気がします。
▼TP4361Bの推奨回路図 (データーシートより抜粋)

こちらがリチウム電池の充電と、5Vへ昇圧するコンバーターの制御チップで、モバイルバッテリー専用に設計されたチップのようです。細かい仕様はデーターシートを見ていただくとして、出力は5V/1A、充電電流は最大1Aで調整可能、電池保護機能、LEDを4個使った充電状態表示機能付きです。スイッチング周波数は500kHzと結構高いので比較的新しい設計の物のような気がします。
なお今回のモバイルバッテリーの回路は抵抗などの値は異なるものの、ほぼこの通りの回路になっていました。
少しだけこの回路を解説しておくと、充電電流はR7の値で決まり、この基板では1.2kΩだったので充電電流は0.83Aに設定されています。充電はシリーズレギュレーター方式で行われるので、USBからの入力電流が(ほぼ)そのまま電池の充電電流になります。昇圧は同期整流でやっているようで、データーシートでは効率は91%となっています。
▼出力波形

確かに1V以上の振幅のリップルが乗っています。雲のようにもやもやしているのはスイッチングに伴う波形です。トリガ条件をきちっと設定すればこれが綺麗な波形として見えてきます。(アナログ400Mhzオシロで見ています)
ちなみに、これは5Vの出力波形@0.5A負荷の状態です。負荷の大きさによって波形は変わってきますが、本来のDC-DCコンバーターのスイッチング波形に加え、負荷状態によっては、間歇的にスイッチングが止まったような波形が出ています。これは何らかの保護機能が働いたか、あるいは効率を下げないための制御機能が動作しているのだと思います。
ともかく、このリップルは、DC-DCコンバーターの出力コンデンサの容量不足が原因なんでしょう。現物の基板に載っているコンデンサの容量は不明ですが、出力端子からLCRメーターで測ってみる(電池の内部抵抗測定用のアダプタ使用)と、1μFしかありませんでした。たぶんこれでは全然足らないでしょう。ちなみに、推奨回路図では出力コンデンサは10μFが2個使われています。
とにかく本当にこんな波形だったら、ダメなことは間違いありません。
でも、実際の使用状態を考えると、相手の機器の電源入力には必ず大容量のコンデンサが入っています。ということは、ほとんどの場合は問題は発生しないのではないでしょうか。
そんなことで実際の使われ方を想定して、出力に47μFの電解コンデンサを入れてみます。
▼出力に47μFの電解コンデンサを付けてみた

こうするとリップルは100mV程度まで小さくなりました。これなら問題はありません。
また、50cmくらいの配線を入れてその先にコンデンサを入れると、配線のインダクタンスのフィルタ効果も加わり、さらにリップルは小さくなります。なお、500kHzのリップルに電解コンデンサでは頼りないので、積セラで再度試してみたいと思います。
あと、配線のどこで、どんなプローブを使って観察したかで結果は大きく違ってくるので注意が必要です。
◆まとめ
この500円のモバイルバッテリーには、安全性を高めるための保護チップが追加されていたりするので、300円の物より良い物に仕上がっていると思いました。
”ガチ検証の記事”には、とんでもない性能、と書かれていますが、実際の使用状態ではそれほど悪い物ではない気がします。記事に書かれている測定結果はまぎれも無い事実でしょう。でも、どういうふうに配線したかを明確にした上で、測定結果の考察をもう少し丁寧にやっていただくと良かった気がします。お金をもらって記事を書いている(はずの)ライターさんには、厳しめにコメントしてます。
負荷側のコンデンサの容量を期待してこういう回路になっているのか、はたまた単に安く作るためにコンデンサの容量をケチったのかは判りません。たぶん後者のような気がしますが、結果オーライになっています。
次回の記事では容量などの性能データーを調べて行きます。
▼ダイソーの500円モバイルバッテリー

この商品に対するネットの評価はさまざまですが、たまたま見た、ダイソーの「500円モバイルバッテリー」をガチ検証してみた結果 と言う記事によると、“お値段なりかそれ以下のモバイルバッテリー” という評価です。内容としては、特に出力のリップルがめちゃめちゃ大きい、というレポになっています。
でも、私が使った限りではそんな問題は感じず、普通に使えています。とは言っても、記事には高級そうな測定器で測ったグラフ付きで報告されているので、情報の信ぴょう性は高そうです。
こうなると自分で調べてみるしかありません。ということで、調べ始めました。
以下報告ですが、内容がややこしいので今回は基本的な確認まで行うことにしました。実際の特性の測定は、次回以降の記事で行いますのでご了承ください。
▼殻割り

ケースの隙間を強引にこじ開けましたが、内部はプラスチックの爪で固定されていて、いくつかの爪はちぎれてしまいました。でも爪はたくさんあるので、残った爪だけでたぶん大丈夫でしょう。
中にはラミネートタイプのリチウム電池が入っていました。電池は強力な両面テープで固定されているので、角を少し浮かせ、隙間にエタノールをアトマイザで噴霧して徐々に剥がしました。上の写真の右の半透明な容器がエタノールを入れたアトマイザです。ここでマイナスドライバーなど金属で電池を ”こじる” と、電池に深刻なダメージを与える可能性が高いので、割りばしを削った物など、柔らかい物をヘラ代わりに使って少しずつ剥がした方が安全です。
▼基板

XB8686Eというマーキングの8ピンのICと、TP4361Bというマーキングの16ピンのICが使われていました。まずはこのICの素性を調べてみました。
いつもならパターンを追っておおざっぱな回路図を書きます。でもこの基板は電池が外せないし、ちょっとしたことでDC-DCコンバーターが起動します。テスターで導通を当たっている最中に回路が動き出すと、テスターを壊しそうです。そんなことで、今回は回路図作りは止めました。
ただ、メーカーの推奨回路図が発見出来たので、どういう配線になっているかはほとんど判りました。
▼XB8686Eの推奨回路図 (データーシートから抜粋)

これはリチウムイオン電池の保護用チップでした。単セルリチウム電池の保護回路に入っているICと同じ物のようで、過電圧、過電流、過放電などに対する保護を行います。300円のモバイルバッテリーにはこういうチップは入っていなかったので、一段安全性が高くなったような気がします。
▼TP4361Bの推奨回路図 (データーシートより抜粋)

こちらがリチウム電池の充電と、5Vへ昇圧するコンバーターの制御チップで、モバイルバッテリー専用に設計されたチップのようです。細かい仕様はデーターシートを見ていただくとして、出力は5V/1A、充電電流は最大1Aで調整可能、電池保護機能、LEDを4個使った充電状態表示機能付きです。スイッチング周波数は500kHzと結構高いので比較的新しい設計の物のような気がします。
なお今回のモバイルバッテリーの回路は抵抗などの値は異なるものの、ほぼこの通りの回路になっていました。
少しだけこの回路を解説しておくと、充電電流はR7の値で決まり、この基板では1.2kΩだったので充電電流は0.83Aに設定されています。充電はシリーズレギュレーター方式で行われるので、USBからの入力電流が(ほぼ)そのまま電池の充電電流になります。昇圧は同期整流でやっているようで、データーシートでは効率は91%となっています。
▼出力波形

確かに1V以上の振幅のリップルが乗っています。雲のようにもやもやしているのはスイッチングに伴う波形です。トリガ条件をきちっと設定すればこれが綺麗な波形として見えてきます。(アナログ400Mhzオシロで見ています)
ちなみに、これは5Vの出力波形@0.5A負荷の状態です。負荷の大きさによって波形は変わってきますが、本来のDC-DCコンバーターのスイッチング波形に加え、負荷状態によっては、間歇的にスイッチングが止まったような波形が出ています。これは何らかの保護機能が働いたか、あるいは効率を下げないための制御機能が動作しているのだと思います。
ともかく、このリップルは、DC-DCコンバーターの出力コンデンサの容量不足が原因なんでしょう。現物の基板に載っているコンデンサの容量は不明ですが、出力端子からLCRメーターで測ってみる(電池の内部抵抗測定用のアダプタ使用)と、1μFしかありませんでした。たぶんこれでは全然足らないでしょう。ちなみに、推奨回路図では出力コンデンサは10μFが2個使われています。
とにかく本当にこんな波形だったら、ダメなことは間違いありません。
でも、実際の使用状態を考えると、相手の機器の電源入力には必ず大容量のコンデンサが入っています。ということは、ほとんどの場合は問題は発生しないのではないでしょうか。
そんなことで実際の使われ方を想定して、出力に47μFの電解コンデンサを入れてみます。
▼出力に47μFの電解コンデンサを付けてみた

こうするとリップルは100mV程度まで小さくなりました。これなら問題はありません。
また、50cmくらいの配線を入れてその先にコンデンサを入れると、配線のインダクタンスのフィルタ効果も加わり、さらにリップルは小さくなります。なお、500kHzのリップルに電解コンデンサでは頼りないので、積セラで再度試してみたいと思います。
あと、配線のどこで、どんなプローブを使って観察したかで結果は大きく違ってくるので注意が必要です。
◆まとめ
この500円のモバイルバッテリーには、安全性を高めるための保護チップが追加されていたりするので、300円の物より良い物に仕上がっていると思いました。
”ガチ検証の記事”には、とんでもない性能、と書かれていますが、実際の使用状態ではそれほど悪い物ではない気がします。記事に書かれている測定結果はまぎれも無い事実でしょう。でも、どういうふうに配線したかを明確にした上で、測定結果の考察をもう少し丁寧にやっていただくと良かった気がします。お金をもらって記事を書いている(はずの)ライターさんには、厳しめにコメントしてます。
負荷側のコンデンサの容量を期待してこういう回路になっているのか、はたまた単に安く作るためにコンデンサの容量をケチったのかは判りません。たぶん後者のような気がしますが、結果オーライになっています。
次回の記事では容量などの性能データーを調べて行きます。
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