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ACアダプタの電流波形と消費電力 (3/3)、波形から有効電力を推定

1.まえがき
スイッチング方式のACアダプタの消費電流測定の話のたぶん最終回です。前の記事で平滑コンデンサの容量で入力電流波形が変わり、それに伴い力率が大きく変わることが判りました。

力率は有効電力の値(=電気料金)に直結しているので重要です。今回の記事では波形の特徴から力率を推定することで、パワーメーターを使わないで有効電力を測定する方法を検討してみます。なお、ここでいうパワーメーターとは、有効電力を瞬時電圧と瞬時電流の掛け算で求めている測定器のことです。

2.波形から力率を求める
前の記事では負荷抵抗が1000Ωの条件でシミュレーションしたのですが、波形は平滑コンデンサと組み合わせた時定数で決まってくるはずです。つまり、1000Ωという値は力率を論じる場合にはあまり気にしなくて良いはずです。

・電圧、電流、瞬時電力の波形
電圧電流と電力波形
上側のグラフはACの電圧と電流波形、下は瞬時電力波形で、コンデンサの容量を変えた時の波形の変化の様子が判るようになっています。

電流波形のピークの位置は変わっていますが、導通時間(ON時間)が同じなら相似形みたいです。つまり、ON時間に着目すれば波形の状態を特定することが出来そうです。

3.状態を変えてシミュレーション
ON時間を変えるために、平滑コンデンサの値を変化させてシミュレーションを行った結果が下記の表です。これは前の記事でやったこととほとんど同じなので、詳しくはそちらをご覧ください。

・50Hzの場合のシミュレーション結果
50Hzのシミュレーション結果一覧表
平滑コンデンサ (C1) の容量を増やすと減形のON時間 (Ton) が減り、それに伴い消費電力 (W,VA) が増えていく様子が表されています。なお、水色に塗ったDMMの列 (Idvm) の意味については後で説明します。

平滑コンデンサの容量とON時間の関係は以下のグラフのようになっています。(負荷抵抗=1000Ωです)
平滑容量vsON時間

4.力率を推定する
ON時間を横軸に取り、力率との関係を示したのが次のグラフです。
ON時間対力率の値(50Hz)
ON時間が判れば、このグラフから力率の値を推定することが出来ることになります。力率さえわかればこっちのもので、
  P = V * I * 力率 の式から有効電力 (W) を計算することが出来ます。

実例でやってみます
・モデムルーター(BL902HV)の電源電流波形
モデムルーターの電源電流波形
これは以前の記事で紹介した、BL902HVというモデムルーターの電源電流波形です。
オシロで見るとON時間は2.7msでした。ということは、ON時間/力率のグラフから力率の値は55%であることが判ります。
電源電圧の実効値は100V、電流の実効値はオシロの実効値測定結果から0.21Aと測定されているので、
有効電力は、100V*0.21A*55%=11.6W であることが判りました。

以前の記事ではこのモデムルーター(BL902HV)の消費電力を19.4Wと過大に示していましたが、どうも間違っていたようです。

5.安いテスターで測定する場合
4.項の方法で有効電力を求めることが出来ますが、そのためには電流の実効値を知る必要があります。実はこれは結構厄介で、交流波形の true RMS 測定や、真の実効値測定が出来る高級機にしかこの機能は付いていません。

テスターや安いデジタルマルチメーターのAC測定は、平均値測定の実効値表示になっています。どういうことかと言うと、測定はAC波形の絶対値の平均値で行い、そのままでは値が平均値表示になってしまうので、正弦波の波形率の1.11 (π/(2*sqr(2)) ) を掛けて実効値の値を表示するようになっています。正弦波だけ扱っているならこれで大丈夫ですが。波形が変わってくると大きな誤差を生じることになります。

そんなことで、安いテスターなどではうまく測定できない気がしましたが、そんなことはありません。シミュレーションで電流の平均値も判っているので、力率まで含んだ形で補正係数を出してやれば済む話です。そのために用意したのが次のグラフです。

なお、「交流を平均値測定で行い実効値に換算して表示しているテスターやDMM」と何度も書くのは面倒なので、以下の記事では「安いテスター」と表現することにします。

6.安いテスター用の補正係数
ON時間対Kの値(50Hz)
波形のON時間から上記グラフから補正係数Kの求め、平均値測定実効値表示のDMMで測った電流値と100Vを掛けるだけで有効電力を求めることが出来ます。(Kは勝手にネーミングした記号名です)

実際の例でやってみます。測定対象物は上の例と同じモデムルーターです。

・電流の測定結果
電源電流の測定結果(平均値測定のテスター)
電流は0.1132Aでした。波形のON時間は2.7msなので、グラフからKの値は1.13であることが判ります。ということは、
  P = V * I * K = 100 * 0.1132 * 1.13 = 12.8W
ということで、めだたく有効電力の値が判りました。

なお、4.項の最後に求めた値の11.6Wと少し違っていますが、このオシロの実効値測定結果は刻みがすごく粗いので、その影響が出たのだと思います。

今回のACアダプタの電力測定に関する一連の話の中の最初(1/3)の記事に、3.ちょっと脱線、というくだりがあり、唐突に平均値測定方式のDMM(つまり安いテスター)で測定した結果が出てきます。これ、実はこの時からこんなふうに補正係数を使えば安いテスターでも有効電力が測定できるのではないだろうか?と考えていたからです。

7.電源周波数60Hz用の換算グラフ
ここまでは電源周波数が50Hzの場合の話でした。このまま終わらせると日本の半分を敵にまわすことになるので、60Hzの場合のシミュレーションもやっておきました。以下に結果だけ示しておきます。
・計算表
60Hzのシミュレーション結果一覧表

・力率を求めるグラフ
ON時間対力率の値(60Hz)

・Kの値を求めるグラフ
ON時間対Kの値(60Hz)

9.まとめ
かなり込み入った話なので、背景などを理解したうえで使っていただければ良いかと思います。やることは単純です。ただ、この記事の考え方自体が間違っている可能性があるので、そのあたりは今後検証していきたいと思っています。ともかくそんなことなので、この記事の内容は無保証です。

この記事の方法では、力率あるいはKの値を推定するためには、オシロで波形を見て通電時間(ON時間)の値を測定する必要があり、ここがちょっと面倒です。

ただ具合の良いことに、Kの値の変化は比較的少ないので、オシロで波形を確認しなくても 1.1 くらいの値を使っておけば多くの場合で大きな誤差は発生しないと思います。これなら安いテスター(とカレントトランス)だけあれば有効電力の測定が出来るので手軽に電力の測定が出来ます。

そうは書いてみたものの、波形を確認しないでこの記事の方法を使うのは、少し危険があります。特に最近のパソコンの電源はPFCが入っているので、電源電流波形はこの記事が前提としたものと大きく違っているはずです。まあ、そういう場合は力率は90%以上あるでしょうから、Kの値は1と思って測定すれば良いのかも知れません。

ACアダプタの消費電力について測定した結果のレポート記事をよく見かけますが、その中には trueRMS 測定のDMMで測った電流に100Vを掛けただけの値を消費電力(W)として扱っているものがあります。これでは力率を掛けていないので正確な値になりません。測定器メーカーのカタログに、「true RMS測定なので正確な実効値が測定でき、真の消費電力測定が可能」などと書かれているのでそれを真に受けているような気がします。真の消費電力が判るのは、電圧あるいは電流が一定、つまり直流で、その時の電流あるいは電圧が変動している場合の話なので勘違いしない(騙されない)ようにしないといけません。

まとめが長くなりますが、実効値が判る高級な測定器を使った場合、力率の影響が強く出るのできちんと補正しないと誤差が大きくなります。逆に安いテスターを使った場合は、力率の影響はさほど出ないので、補正しなくてもあまり大きな誤差は出ないということになります。なんだか皮肉な結果です。
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No title

こんばんは、初めてコメントさせて頂きます。
ツボックと申します。
私も60歳を過ぎてゲーム基盤の改造などを
やっています。(Xbox360 PS3 等)
こちらの記事を拝見して、勉強させられる
ことが多くあります。

まだまだ、知識不足もありますが
頑張って行きたい思います。

ツボックさん、今晩は

ゲーム基板の改造とは面白そうですね。

ゲーム関係は嵌ってしまいそうなので封印してますです。

No title

始めまして、私も消費電力を正確に知る必要があり、その測定方法を調べた事があります。
結論から言うと、電圧と電流の瞬間値を掛けて瞬間の電力を計算し、
その瞬間電力の1周期分の実効値を計算します。
その1:オシロスコープの1chの電圧を入力し、2chに電流を入力します。
ここでオシロの演算機能を使って1chと2chの掛け算を行い、電力を
計算し、電力波形を表示します。
その電力波形をさらに演算機能を使って実効値を計算します。
実際に行ってみたらノイズが多くて安定した値を表示できませんでしたがおおよそ正しい値を示しています。

その2:ワットチェッカーを使って消費電力を測定しますが、電力が1Wなので直接測定できません。(誤差が大きすぎます)
そこで電流測定用のシャント抵抗を大きな値に変更して測定しました。
詳細は分かりませんがワットチェッカーの内部では先のオシロを使った時のような計算をしているものと思います。
また電流波形はピーク値がオーバーフローしないようにクレストファクターに注意する必要があります。

その3:パワーアナライザを使って直接消費電力を測定します。
当然正確な電力が測定できますが、この場合もクレストファクターには注意が必要です。

ホシトシオさん、おはようございます

コメントありがとうございます。ちゃんと電力を測るのは大変ですよね。実際の経験を披露して頂いて参考になります。

ちょっと気になったのですが、
>その瞬間電力の1周期分の実効値を計算します。
と書かれていますが、ここは、
「その瞬間電力の1周期分の平均値を計算します。」
が正しい計算だと思います

同じく、
>その電力波形をさらに演算機能を使って実効値を計算します。
「その電力波形をさらに演算機能を使って平均値を計算します。」
が正しいと思います。

あと、交流電力の計算は、波形のピークをちゃんと扱わないと誤差が大きくなるので、クレストファクターは重要ですよね。

私、マイコン(Arduino)は得意なのですが、このCPUで電力計算をやらせたい場合、ADCのビット数が少ない(10ビット)のでクレストファクタが充分確保出来ません。そんなことで、検討段階で作る気が失せてちゃうんですよね。
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